便利な裏方

保育園に勤め始めた津島朱里が初めて保護者から苦情を受けたのは、夏祭りの翌朝だった。

「うちの子だけ、写真にほとんど写っていません。先生は見ていなかったんですか」

母親がスマートフォンに表示した共有アルバムには、提灯の下で踊る子どもたちが並んでいた。娘の美月は、集合写真の端に横顔が一枚あるだけだった。

朱里は撮影係だった。先輩は「動き回る子だから仕方ない」と説明しようとしたが、母親の指は画面の上で止まったままだった。

「楽しみにしていたんです。祖父母にも見せるって」

朱里は言い訳を飲み込み、母親に昼まで時間をもらい、元の連写データを開いた。美月は確かに中央にいた。朱里が「ちょっと持っていて」と反射板を頼む声まで、動画の端に残っていた。けれどシャッターの直前、泣き出した年少児のところへ走り、落ちたうちわを拾っている。次の場面では、倒れた提灯を押さえ、その次は撮影用の反射板を朱里へ渡していた。

写真の外へ出るたび、誰かを助けていた。

それを伝えると、母親は少し表情を緩めた。それでも朱里は「だから写らなくても仕方ない」とは言わなかった。美月の行動が立派でも、園が記録を残せなかったことは別の問題だった。

「私が、美月さんに頼ってしまいました。お手伝いをお願いするなら、その時間も含めて写すべきでした」

朱里は母親の許可を得て、降園前に美月へ昨日のうちわを持ってもらった。作り直した記念写真ではない。母親が欲しかったのは、祭りを再演した笑顔ではなく、その日そこにいた娘の姿だと分かったからだ。美月が年少児へ結び方を教える横で、二人の手元まで入るように一枚だけ撮った。

「またお手伝いの写真?」と美月は笑った。「今度は先生も入って」と言われ、朱里は別の職員に端末を渡した。撮る側だった自分も、ようやく一枚の端に写った。

その日の職員会議で、朱里は撮影表を提案した。全員を同じ枚数にするのではなく、「写っていない子が誰か」を途中で確認し、撮る係と子どもを見る係を分ける。手伝ってくれる子を便利な裏方にしないことも書いた。

先輩は「次の運動会、撮影係は外しておこうか」と気遣った。

朱里は首を振り、担当表の撮影欄に丸をつけた。

「次は、写真の外側にいる子から見つけます」