保護房の白い毛布
稲置玄刑事は、旧留置場の保護房に白い毛布を広げた。
十七年前、路上生活者を殺したとして久我原勉が有罪になった。被害者の爪から白いアクリル繊維が出て、久我原の上着から同じ繊維が検出された。さらに久我原は、非公開だった「白い毛布」を自白で言い当てた。
向かいに座る大桑義範元刑事は、その自白を取った人物だ。
「この毛布、事件当夜も使われていましたね」
「保護房は全部それだった」
「久我原は採取前にここへ十二時間入れられています」
稲置は新しい鑑定書を置いた。久我原の上着の繊維は、被害現場の毛布ではなく、警察納入品にだけ使われた難燃剤を含んでいた。保護房で付着したものだ。衣類の採取時刻は入房から十四時間後。しかも採取した警察官は、毛布を畳んだ同じ手袋で久我原の上着を袋へ入れていた。検査写真には、白い繊維が手袋の指先へ絡む様子まで写っている。判決はこの繊維と毛布の色を《犯人しか知り得ない二重の一致》と呼んだ。二つとも、久我原が警察に入ってから与えられたものだった。
大桑は鼻で笑った。
「繊維が消えても、自白がある」
「自白で毛布の色を言えたのは、この房で見たからです」
「被害者の毛布も白かった」
稲置は現場写真の原板を出した。コピーでは白黒だったが、原板の毛布は濃い青だ。鑑識票にも《紺色》とある。供述調書だけが白い。
大桑の顔から笑いが消えた。
「お前、何がしたい。久我原を出せば、真犯人はもう捕まらん。俺を責めても被害者は戻らない」
「だから無実の人を置いておくんですか」
「警察が間違えたと認めれば、遺族が信じてきた十七年まで壊れる」
保護房の外には監察官が待っている。ただし稲置が合図しなければ、これは退職者への非公式聴取で終わる。大桑はそれを知っていた。
稲置は毛布の端を切り、鑑定用袋へ入れた。現場原板と久我原の衣類試料を同じ保全箱へ収める。
そして房の呼出しボタンを押した。
「正式聴取へ切り替えます」
白い毛布の上に、監察用の録音機を置いた。