借金奴隷と零掛けの秤

鉱山町では、パン一個の借金が三年で家一軒分になる。

利息に利息が付き、道具代、空気代、退職許可代まで帳簿へ足されるからだ。坑夫ベルクも父の治療費として銀貨十枚を借り、今では金貨八百枚を返せと首輪を付けられていた。

その朝、鉱山主は病気で働けない父を競売へ出した。

「払えないなら、人で返せ」

ベルクが帳簿を奪おうとした瞬間、首輪が締まる。膝をついた視界に、黒い窓が現れた。

《条件達成:返しても減らない借金を千日返済した者》

《主人公専用排出枠〈清算〉を解放》

《一度だけ、負債を正しく量る道具を排出します》

引いて出たのは、皿が片方しかない小さな秤だった。

《零掛けの秤》

《正当な元金を完済済みなら、不当な増分へ零を掛ける》

鉱山主は腹を抱えて笑う。

「片皿の秤で何を量る?」

ベルクは皿へ帳簿を載せた。

針が十を示す。最初に借りた銀貨十枚だ。次に、これまで天引きされた賃金が光の粒となって反対側へ積み上がる。銀貨換算で百四十六枚。元金も、法で認められた利息も、とっくに払い終えていた。

秤が傾いた瞬間、帳簿の金貨八百という数字へ大きな「×0」が重なる。

ベルクの首輪が砕けた。父の足枷も、坑道で働く二百人の契約鎖も続けて外れる。同じ帳簿から生えた不当債務が、一件残らず零になったのだ。

それだけでは終わらない。払い過ぎた額が逆向きの負債として鉱山主の側へ移る。金庫の扉が開き、金貨が坑夫一人ひとりの賃金袋へ飛び込んだ。鉱山主の豪邸の権利証まで、未払い分として町の共同名義へ書き換わる。

「盗みだ!」と鉱山主が叫ぶ。

ベルクは父の首輪を拾い上げ、静かに返した。

「借りた物を返しているだけでしょう。あなたがいつも言っていた通りに」

競売台はその日のうちに解体され、坑夫たちは材木で診療所の入口を作った。

片皿だった秤に、遅れてもう一枚の皿が光で生まれる。

《因果級神器〈絶対清算天秤〉》

《世界初清算:不当債務二百一件、残高零》

《債権者変更――働いた者たち》