傘の骨が一本曲がっている

雨の同窓会に、汀は高校時代の傘を持ってきた。

紺色の布はところどころ白くなり、骨が一本だけ外側へ曲がっている。卒業式の日、朱音と相合傘をしたときに強風で折れたものだ。

二人はずっと成績を競っていた。汀は東京の大学へ、朱音は家業を継ぐため地元へ残ると決まっていた。校門前で朱音が「逃げられていいね」と言い、汀は「残るしかない人に言われたくない」と返した。

その直後に雨が強まり、どちらも謝らないまま一本の傘へ入った。肩を濡らし、駅まで歩いた。曲がった骨が二人の間で何度も軋んだ。

汀は東京で働き、転職を重ねた。帰省のたび「都会は大変」と笑いながら、地元へ戻る選択だけは敗北のように避けた。先月、勤めていた会社が事業を縮小し、今は休職中だ。それでも同窓会では、忙しいふりをするつもりだった。

会場の入口で傘を閉じると、骨が完全に外れた。

「まだそれ使ってたの」

朱音が駆け寄った。彼女は家業の和菓子店を継ぎ、二号店を出したという。羨ましいと言うべきか、地元も大変でしょうと言うべきか、汀は昔の勝負の言葉を探した。

朱音は濡れた傘を見て笑った。「直したかったなら、うちの隣、傘屋だよ」

汀も笑った。十年前の言葉を謝ると、朱音は「私も」と短く返した。それ以上、どちらの人生が正しかったかを比べなかった。

帰りは朱音が貸してくれた透明傘で駅へ向かった。古い紺色の傘は修理に預けた。店主が「骨は替えるけど、持ち手は残せます」と言うので、汀はお願いしますと答えた。

ホームで、地元企業の求人メールを開く。勤務地の欄にこの町の名がある。応募するかどうかは、まだ決めない。ただ「候補外」の印を外した。

新しい骨になっても、あの日の持ち手は残る。

修理票の受取人欄には、東京の住所ではなく実家の住所を書いた。仮の滞在先と呼んでいた場所を、初めて自分の住所として。

雨はまだ、静かに降り続いていた。

汀は透明な傘越しに雨の町を見て、帰ることも進むことの一つだと、ようやく思えた。