先生の数え間違い
小夜は、フォークダンスの並び順を決めた担任を、一生恨むつもりだった。
男子と女子の人数が合わず、先生が「適当に一人ずつ詰めろ」と言ったせいで、岳人と当たるはずだった順番が一つずれたからだ。小夜は前夜、出席番号を紙に書き、欠席予定まで調べていた。ところが担任は、その努力を笛一本で無にした。
体育祭当日、小夜は知らない相手と踊りながら、円の向こうの岳人をにらんだ。本人は楽しそうに笑っている。腹立たしい。
岳人がほかの女子と回るたび、小夜は自分の相手の足を踏んだ。三人目には「俺、何かした?」と謝られ、ますます担任への恨みが深くなった。
一曲目が終わり、給水時間になった。
「なんで怒ってんの」
岳人が紙コップを持って現れた。
「怒ってない」
「眉間、校章みたいになってる」
「先生が数え間違えたから」
「何を?」
「人数を」
「それで?」
「別に」
小夜は麦茶を一気に飲んだ。岳人は首をかしげ、ふいに自分の列へ戻った。
二曲目が始まる直前、担任がまた笛を吹いた。
「男子、全員ひとつ右へ!」
ざわめきながら列が動く。岳人が小夜の正面へ来た。
「先生、また間違えた?」
岳人が聞く。
「たぶん」
「じゃあ仕方ないな」
音楽が流れ、手を取る。小夜は緊張しすぎて、最初から逆の足を出した。岳人も同じ足を出し、二人で靴を踏み合った。
「下手だね」
「そっちが合わせてよ」
「俺、予定になかった相手だから」
「……予定って何」
小夜が固まると、岳人は目をそらした。
「朝、先生に頼んだ。二曲目だけずらしてって」
「どうして」
「分かってるくせに聞くなよ」
四拍ぶん、二人は無言で回った。小夜の耳まで熱くなる。岳人も振りを忘れ、同じ場所を二度回った。周囲から笑われたが、二人とも先生のせいにできるので困らなかった。
曲が終わると、担任は二人の前を通りすぎながら小声で言った。
「数え間違いは今回だけだからな」
教室へ戻った小夜は、黒板の日直欄の下に小さく書いた。
――先生、一回だけなら許す。
翌朝、その横に赤いチョークで返事があった。
――教師生活で最も難しい人数調整だった。
岳人はその文字を見て笑い、小夜はまた先生を恨むふりをした。