公園を取り戻す票

瓜生田千萱が故郷へ戻ると、子どもの頃に遊んだ公園は睡眠カプセル棟になっていた。

都市AIによれば、公園の利用希望は十年間ゼロ。住民は快適性のため、選択権を自動代行へ預けていた。千萱自身も、更新画面を読まず同意していた。

母は生前、公園がなくなったことを嘆いていた。千萱は、利用者が少ないなら仕方ないと答えた。母が亡くなったあと、遺品から泥のついた赤い靴が出てきた。千萱が初めて歩いた日に履いていた靴だった。母は効率ではなく、その場所に置いた時間を惜しんでいたのだ。

「復旧には五十名の明示的希望が必要です」

睡眠カプセルの利用者からは、思い出のために現在の便利を奪うなと責められた。千萱は反論できなかった。公園を望むことは善で、望まない人は冷たいと決めれば、AIの代わりに自分が他人を支配するだけだ。彼女は復旧後もカプセルを別区画へ残す案を考え、必要な面積を一軒ずつ説明した。

彼女は近所を回った。だが誰も、欲しいものを言えなかった。

「公園とカプセル、どちらがいいですか」

「AIが良いほうで」

「子どもは?」

「推奨環境で遊びます」

千萱は質問を変えた。

「ここで何を覚えていますか」

老人は、妻へ初めて告白したベンチを話した。女性は、息子が転んで前歯を折った場所を笑った。青年は覚えていないと言ったあと、雨上がりの泥の匂いだけ口にした。

希望は四十九件集まった。あと一人が見つからない。申請期限の夜、千萱は名簿の先頭にある自分の欄が空白だと気づいた。彼女もまた、決定をAIへ預けたままだった。

千萱は代行契約を解除した。確認画面には、快適性低下、時間損失、後悔可能性が並んだ。すべて読んでから、自分の票を入れた。

半年後、公園は戻った。木はまだ細く、土は雨のたび靴を汚した。睡眠カプセルを望んでいた住民から苦情も来た。千萱はその一件ずつに返事を書いた。

選んだ以上、反対する人に説明するところまでが自分の責任だと思ったからだ。

ベンチに座ると、子どもが転び、大声で泣いた。都市AIは危険削減のため舗装を提案した。

千萱は画面を閉じた。

公園だけでなく、面倒な町の一員へ戻った気がした。