再現率百パーセント
暮石玲央の不具合報告は、同じ題名ばかりだった。
《所持品複製・再現手順四十七》
《所持品複製・再現手順四十八》
《所持品複製・再現手順四十九》
オンラインゲームの開発責任者・鷺宮は、報告一覧を会議画面へ映して笑った。
「優先順位も分からず、同じバグを増やすだけ。QAの才能がない」
玲央は、条件が一つずつ違うと説明した。
通信速度、装備の順番、画面を閉じる時刻。四十八番までは開発用端末でしか起きなかったが、四十九番だけは市販機でも起きる。どれか一つでも変われば再現しないため、別々に残していた。
発売前日の配信イベント。
人気配信者が新作を遊び、同時視聴者は二十万人を超えた。
鷺宮は玲央を配信室の外へ出した。
「余計な警告で空気を悪くするな」
開始十五分、配信者が偶然、四十九番目と同じ操作をした。
希少装備が二つに増える。
コメント欄が爆発した。
配信者は面白がってもう一度試す。玲央は外から停止を求めたが、鷺宮は扉を施錠し、配信を続けさせた。今度は十個に増えた。ゲーム内通貨へ換えれば、正式サービス開始前に経済が壊れる。
鷺宮は「配信環境だけの問題」と説明した。
玲央は扉の外から、検証動画の保管場所を伝えた。
法務と販売元の担当者が動画を開く。
四十九通りすべて、日付入りで再現されていた。修正案も添付済みだった。必要な変更は一行だけで、玲央は三週間前からテスト用ビルドまで用意していた。
さらに管理画面には、鷺宮が全報告を「重複」として一括終了した履歴が残っている。
理由欄には《発売日優先》の四文字。
「こいつの書き方が悪いから見落とした」
鷺宮が言うと、販売元の統括が静かに聞いた。
「では、なぜ修正案まで閉じたのですか」
返事はなかった。
統括は統括は配信を緊急停止し、発売延期を決めた。被害が出る前に修正版を検証するため、開発権限を再設定した。
鷺宮の管理者表示が消え、玲央の端末に新しい通知が届く。
《リリース承認責任者:暮石玲央》
その瞬間、四十九件すべての状態が《最優先》へ変わった。