写真にいない人
仁科家のアルバムには、琴羽が撮った写真ばかりが収められていた。
正月、法事、還暦祝い。義母の静枝は毎回カメラを琴羽へ渡した。
「家族だけで一枚お願い」
夫の柊二も、兄の桂一も妹の奈都も、琴羽が写っていないことを不思議に思わなかった。写真を現像し、台紙へ貼り、日付を書き込む役まで、いつも琴羽だった。
静枝が自宅の階段で転び、歩けなくなった。
退院支援会議の日、三人の子どもは仕事や育児を理由に介護を断り、最後に琴羽を見た。
「琴羽なら細かいことに気がつく」
「母さんも女同士の方が楽よ」
柊二は、妻へ相談せず答えた。
「うちで引き取ります。琴羽が仕事を減らせば大丈夫です」
静枝は安心してうなずく。
「やっと家族の役に立てるわね」
琴羽はアルバムを机に置き、最初の頁から最後までゆっくりめくった。二十七回の家族行事。そのどこにも自分はいない。
「撮影者は、写真の中の家族にはなれませんでした」
「写真くらいで根に持つなんて」
奈都が笑う。
「今は本当の家族として頼ってるのよ」
「頼る側だけが決めることではありません」
琴羽は勤務先の辞令を出した。柊二が母との同居を勝手に決めたため、琴羽は社宅へ移り、別居する。静枝の住居に通うことも、退職することも、緊急連絡先になることも拒否すると書面で届けていた。
退院調整看護師が三人の子どもへ顔写真の登録を求めた。見守り機器の通知を受け、介護サービスの変更を承認できるのは、登録された家族だけだという。
桂一は後ずさった。
「僕は遠方だから」
奈都も首を振る。
「私には小さい子がいる」
看護師は琴羽を見たが、琴羽はカメラを受け取らなかった。
最初に呼ばれた柊二が、登録用の白い壁の前へ立つ。
続いて桂一、奈都。
端末に三人の顔が並び、《主介護家族登録完了》の表示が点灯した。
琴羽は、最後まで写真の外にいた。
今度は、それが自分で選んだ場所だった。