冬の最後の肉まん
野球部の三年生が全員引退した翌日、コンビニの肉まんが売り切れた。
「最後の一個、誰が買ったんだよ」
元主将が空のケースを見て本気で悔しがった。
大会で負けた日より落ち込んで見えた。
私たちは部室の片づけを終え、三年間通ったコンビニへ来ていた。練習後、先輩たちは決まって肉まんを買った。私はマネージャーとして、財布を忘れた人へお金を貸す係だった。
「ピザまんならある」
「別物」
「あんまん」
「もっと別」
元主将は店の隅で腕を組んだ。
店員さんが奥から出てきた。
「十五分待てるなら蒸すよ」
私たちは顔を見合わせた。
引退したのだから、急ぐ理由はなかった。
店の外で十五分待った。
夕方のグラウンドから、後輩たちの声が聞こえる。新しい主将の号令はまだ少し頼りない。
「明日から、来ないんですか」
私が聞くと、元主将は自販機へ硬貨を入れた。
「受験」
「たまには」
「行ったら口出す」
「してください」
「後輩が困る」
炭酸飲料を開け、私へ一口くれた。
「マネージャーは続けるんだろ」
「来年まで」
「じゃあ、肉まん係も継続」
「そんな係ないです」
十五分後、できたての肉まんを受け取った。
熱すぎて持てない。
元主将は袋の上から左右の手へ移しながら笑った。
「最後なのに食べられない」
「待てばいい」
「待つの苦手」
試合でも、変化球を待てずに打ち損じる人だった。
肉まんを半分に割ると、湯気が上がった。
元主将は一口食べ、今度こそ黙った。
「泣いてます?」
「熱いだけ」
「昨日も言ってました」
「昨日は汗」
私は見ないふりをした。
食べ終えるころ、グラウンドの照明がついた。
後輩の声が夜へ伸びる。
「戻る?」
元主将が聞いた。
「引退したんじゃ」
「忘れ物」
「何を」
「口出し」
二人で校門へ戻った。
フェンス越しに練習を見るだけのつもりが、元主将はすぐ大声を出した。
後輩たちが笑って振り返った。
翌週から、元主将は毎日ではなく、週に一度だけ来た。
コンビニの肉まんを人数分買い、袋を抱えて。
最後の肉まんは、何度も最後ではなくなった。