出口を捨てる人

御影谷絢人は、登録画面の候補欄へ〈管理者〉と入力した。

須磨崎千尋が首をかしげ、下鴨凪紗は扉の赤い錠を見つめる。規則は一つだった。

〈一人がこの施設を出る権利を永久に放棄すれば、参加者全員を解放する〉

三人の端末には、それぞれ自分の名前と〈放棄〉ボタンがある。候補欄の右端には小さなカーソルが点滅し、登録者なら手入力も受け付ける仕様だった。主催者自身も登録者一覧の最上段にいる。主催者は、誰が一生ここへ残るか押しつけ合わせるつもりだった。

絢人は候補欄が直接入力できることに気づいた。権利を放棄する人を「参加者」と限定していない。

『管理者は選択できません』

「なぜ? この施設から出る権利がないの?」

『当然、あります』

その返答を待っていた。

権利を持つ一人であり、施設内にいる。条件は満たす。さらに開始時、主催者は自分の管理者証を読み取り機へかざし、扉を実演していた。システムには、管理者の退出権限が正式に登録されている。

絢人は決定を押した。

〈管理者アカウントの退出権を検出〉

〈永久放棄の確認を要求〉

『私は同意していない!』

「規則には本人の同意が必要とも書いてない。私たちが一人を選ぶゲームでしょう」

千尋も凪紗も〈承認〉を押した。三票がそろう。

主催者は端末を遠隔停止しようとしたが、退出権の放棄は施設の安全契約に組み込まれていた。監禁者自身が途中で逃げないことを出資者へ保証するための項目だ。一度確定すれば、管理権限でも戻せない。

〈管理者の退出権を失効〉

〈条件成立。参加者を解放〉

赤い錠が緑へ変わる。

凪紗が絢人に尋ねた。

「殺さなくていいの?」

「犠牲にするものは命だと、どこにも書いてない」

一方鏡の向こうで、別の扉が閉じる音がした。主催者は生きている。ただし、自分で作った施設から二度と出られない。

絢人は開いた出口へ踏み出した。

「人を閉じ込めるゲームが好きなら、最後まで自分で遊べばいい」

三人の背後で、管理者だけが出口を失った。