切れない荷紐
ロプシャの荷紐は、売上票に載らなかった。
運送商会では、箱や樽を買った客へ紐を添える。丈夫すぎて買い替えも起きず、売上寄与は2%。経理長は束を持ち上げて笑った。
「無料で配り、戻ってもこない。最悪の商品だ」
ロプシャは麻を撚る車輪から手を離した。彼女の紐は、荷の重さが偏ると繊維がわずかに伸び、箱同士の圧力を均す。雨を吸うと締まり、乾くと緩むため、木箱を割らずに固定できた。遠距離輸送で中身が無事なのは、御者の腕だけではない。
経理長は安い紐へ替え、余った費用を利益として報告した。出発時の荷姿は整っていた。ところが峠の雨で紐が緩み、晴れ間で急に縮み、箱が潰れた。陶器は砕け、薬瓶は漏れ、客は中身だけでなく運送商会そのものを見限った。
御者たちは経理長の前へ切れた紐を積んだ。
「ロプシャの紐は切れなかったから、誰も名前を知らなかったんだ」
その言葉を拾い、《損失逆算機》が唸り始めた。販売額から利益を数えるのではなく、破損を防いで守られた代金を工程へ戻す機械だった。箱、樽、陶器、薬の札から光がほどけ、運送札を越えて、麻撚り車輪へ巻き付いた。
「壊れなかった物を売上と呼ぶのか!」
経理長の叫びに、機械は軋んだ文字を返した。
《失われなかった代金こそ、最も確かな売上である》
倉庫係が持ち込んだ古い荷紐には、各地の港印が重なっていた。荷を解いたあとも捨てられず、別の箱を結び、また遠くへ渡った証だ。経理長は買い替えがないと責めたが、逆算機は紐が再利用されるたび、運送契約が途切れなかった記録を映した。売れないのではない。売った信用が長く働いていた。
ロプシャは商会へ戻る前に、経理長の金庫を自分の荷紐で縛った。ほどく許可を求められても、首を横に振る。中にあるのは削減で得た金ではなく、客へ返すべき代金だった。
金庫の前で、経理長だけが結び目を解けずに立ち尽くした。
運送人たちは無事に届いた木箱を開き、割れていない陶器や乾いた薬瓶を経理長の前へ並べた。中身の商人たちも、ロプシャの紐が標準になるまで別の運送契約を結ばないと宣言する。経理長は紐代を経費と呼び続けたが、客は彼の削減表より破損記録を選んだ。ロプシャは安い紐を作った職人を責めず、短距離や軽荷に合う用途を与えた。ただし峠越えの荷は自分の検査を通す。金庫の返金が終わるころ、経理長の机には利益表ではなく、守れなかった荷の謝罪状が山になっていた。
《真価確定:ロプシャ 実売上寄与98%》
《売上順位:末席→首位/役職:荷紐撚り係→運送品質総監》