制服交換票
丹羽崎枝里が働くカフェの制服は、白いシャツと深緑のエプロンだった。
採用時に渡されたシャツは胸だけがきつく、二番目と三番目のボタンの間が開いた。枝里は大きいサイズを頼めなかった。胸のことを説明するのが嫌で、「少し痩せれば着られる」と自分に言い、裏から安全ピンで留めた。
胸が目立たないよう背中を丸める癖もついた。カップを運ぶときまで肩が前へ入り、閉店後には首が固くなる。それを制服のせいだとは考えず、自分の体型が規格からはみ出した罰だと思っていた。
安全ピンは笑ったり屈んだりするたびに引っぱられた。混雑した日は先端が外れ、皮膚に刺さることもある。それでも休憩室で留め直し、誰にも報告しなかった。
土曜の午後、店は満席になった。枝里が低いテーブルへカップを置いた瞬間、胸元で小さな音がした。安全ピンが外れ、シャツの裏を滑って床へ落ちた。
客には見えなかったらしい。けれど枝里は片手でトレーを持ち、もう片方で胸元を押さえたままバックヤードへ戻った。
予備の安全ピンは財布に三本ある。一本を取り出し、鏡の前で布を寄せる。指先には、これまで刺した細い跡が残っていた。
店内から注文を知らせるベルが鳴る。急げば、また隠せる。
枝里は安全ピンを財布へ戻した。ロッカーの横に掛かっている制服交換票を一枚取り、氏名と現在のサイズを書く。理由欄でペンが止まった。
《破損》と書けば、胸のことを言わずに済む。けれど同じサイズが届けば、また留めることになる。
枝里は《胸囲が合わず、接客動作に支障》と書いた。声に出すより短く、事実だけだった。
文字にすると、それは恥ずかしい告白ではなく備品の不具合になった。枝里は書き直さず、交換希望の欄に一つ上のサイズを丸で囲んだ。
責任者の机へ票を置き、その日は私物の黒いカーディガンを上から羽織って戻った。暑く、見た目も制服とは揃わない。責任者は注文票を見ながら、あとで在庫を確認するとだけ言った。
閉店後、交換票は机から回収箱へ移されていた。大きいサイズがいつ届くかはまだ分からない。
枝里は安全ピンを三本とも財布から出し、事務用品の箱へ戻した。
次の勤務に持っていくものから、痛みを一つ減らした。