割り勘のレシート

日曜の午後六時、緋奈は財布から細長いレシートを取り出した。

カフェラテ、八百円。季節のタルト、千百円。紅茶、七百五十円。合計二千六百五十円。

マッチングアプリで知り合った人との二度目の食事だった。会計の前で相手が「千三百円でいいよ」と言い、緋奈は千円札と三百円を渡した。五十円だけ相手が多く払った計算になる。

帰宅してから、その五十円が気になっていた。財布の小銭入れには、ちょうど五十円玉が一枚残っている。

友人たちの話では、最初の数回は相手が払うことも多いらしい。動画では「本気の男性は女性に財布を出させない」と言っていた。別の記事には、対等な関係なら割り勘が自然だとある。緋奈自身は、自分の分を払う方が気楽だった。なのにレシートを見ていると、会計が好意の測定器に思えてくる。

相手は店で、緋奈が先月なくしたイヤリングの話を覚えていた。仕事の話を途中で遮らず、タルトの最後の一口を急かさなかった。帰り際には「今日はありがとう」と言った。それらより、千三百円という数字の方が分かりやすいから、何度も考えてしまう。

テーブルには、帰りに買った野菜炒めが冷めている。夕飯を食べるほど空腹ではないのに、明日の弁当用に買った。容器の裏には、二十時までに食べるよう書いてある。

緋奈はレシートを家計簿アプリへ入力した。交際費、千三百円。メモ欄に相手の名前を入れかけて、やめた。今日の支出に、関係の結論まで記録する必要はない。

アプリのメッセージ欄を開き、〈今日は楽しかったです。タルトおいしかったですね〉と送った。「また会いたい」は書かなかった。会いたくないわけではなく、今夜決めなくていいと思ったからだ。

野菜炒めを冷蔵庫へ入れ、レシートは財布のごみ入れへ移した。五十円の差は、そのままにした。

相手が誠実か、自分と合うか、次があるか。二時間会っただけでは、どれもまだ分からない。今日は千三百円でお茶をして、話をして、無事に帰ってきた。それだけなら、十分に悪くない日曜日だった。