勇者除名式の毒杯
魔王討伐の祝宴で、荷物持ちアルドは勇者一行から除名された。
「お前は戦闘に参加せず、後ろで盾を構えていただけだ」
勇者ヨルヴァンが笑う。褒賞金を四人で分けるための追放だった。だがアルドが各地で集めた記録には、勇者が魔族の村を焼いた証拠がある。彼を生かして帰すつもりはない。
「仲間だった情けだ。別れの酒をやろう」
杯には魔王の角から採った〈冥界滴〉。蘇生魔法さえ拒む毒である。
アルドは黙って飲んだ。
僧侶は解毒を始めるふりをし、魔術師は倒れるまでの時間を数える。ヨルヴァンは観客へ向けて、役立たずが過労で急死したという弔辞を考えていた。
一分が過ぎる。
アルドは盾を床へ立てた同じ姿勢で、杯を返した。
「もう帰っていいか」
「毒が効いていないだと?」
ヨルヴァンの声が裏返る。僧侶は解毒の演技をやめ、魔術師は毒瓶の封印を見直した。二人とも、これまで自分たちが生き残れた理由を思い出し始めていた。竜の尾が迫ったときも、魔王の呪いが降ったときも、アルドはいつも最後尾にいた。
卓へこぼれた一滴で、魔王城から持ち帰った黒曜石の皿が溶けていた。冥界滴は間違いなく本物だ。
「貴様、魔族と契約したな!」
勇者は聖剣〈暁断〉を抜いた。味方殺しを隠すため、アルドを魔族認定して斬るつもりだ。剣に討伐報酬の聖力すべてを注ぎ、城壁を割った最終奥義を放つ。
光の奔流が宴会場を縦断した。爆煙が天井画を隠し、貴族たちは卓の下へ伏せる。
煙が晴れる。
アルドは盾を床へ立てた同じ姿勢で立っていた。盾に傷はない。それどころか、彼の背後にいた給仕も窓も無傷だった。
「後ろで盾を構えていただけ、か」
アルドは初めて笑った。背後の給仕たちは、彼が守っていたことに今さら気づき、深く息を吐いた。
「俺の固有職〈しんがり〉は、最後尾にいる間、味方へ届く害をすべて止める。だからお前たちは一度も致命傷を負わなかった」
彼は盾をどけた。受け止められた聖力が刃へ逆流し、ヨルヴァンの腕を震わせる。
聖剣〈暁断〉が砕けた。