包み布の結び目

新入社員の弦は、弁当の包みをほどくのが苦手だった。

祖母の睦代は、毎朝きっちり真結びにする。通勤鞄の中で崩れない代わりに、昼休みには結び目が固く締まっている。

同期が次々と食べ始める中、弦だけが布の角を引っ張り続ける。ある日、隣席の迪が「貸して」と手を伸ばした。

結び目を逆向きに少し押し、片方の端を抜く。布はあっさりほどけた。

「力を入れるほど固くなるやつ」

弁当には筍ご飯と菜の花の辛子和えが入っていた。蓋を開けると、春の土に似た匂いがする。迪はコンビニのサラダを食べながら、「いいなあ」と言った。

弦は筍を一切れ分けた。代わりに、迪から小さなチョコレートをもらう。祖母の薄味のあとでは、甘さが強く感じられた。

その夜、弦は睦代に結び目を緩くしてほしいと言いかけたが、やめた。代わりに結び方を教わった。

「右を上にして一度、次は左を上」

祖母の指は節が太いのに、布を扱うときだけ滑らかだった。

翌朝、弦は自分で包んだ。緩すぎて鞄の中でほどけないか心配だったが、昼までちゃんと形を保っていた。

迪の前で結び目を押し、端を引く。今度は一度で開いた。

「上達したね」

弁当の隅には、睦代が入れた桜色の餅が一つあった。弦は半分に切り、迪の蓋へ載せた。

食後、今度は自分で布を結ぶ。朝ほどきれいではない結び目を掌で整えると、布には筍と辛子の匂いが移っていた。家へ帰るまで、それを鞄の中へ大事に包んでおこうと思った。

その週末、弦は新しい包み布を買い、睦代へ贈った。祖母は弁当を持って出かける予定などないと言ったが、翌日のお茶菓子をその布で包んだ。二人で結び目を作り、交互にほどく。布からは桜餅の葉の匂いがして、教わった指の動きが、言葉より長く掌に残った。

月曜、弦は桜餅の匂いが残った布で弁当を包んだ。迪が鼻を近づけ、「今日は甘いね」と言う。中身は焼き魚だったが、布をほどいた一瞬だけ、祖母と過ごした休日の茶の香りが机に広がった。