十七時一分

電子入札システムの保守をする槙尾透は、時刻に厳しかった。締切は十七時。十七時〇分五十九秒は有効で、十七時一分〇秒は無効。人情を挟む余地がないから、システムが使われる。

市営住宅の設備点検入札で、締切直後にアラートが出た。ある会社の提案書が十七時一分十二秒に届いている。透は無効フォルダへ移そうとした。

契約課の管理者から電話が来た。

「回線混雑だ。受信時刻を十六時五十九分四十八秒に直してくれ」

透が拒むと、管理者は自分の権限でデータベースを書き換えた。画面上、その会社は期限内提出になった。翌日の開札で同社が最安となった。

だが監査ログは別のサーバにあり、誰にも消せない。そこには、ファイル受信『08:01:12Z』、時刻変更『08:06:31Z』と記録されていた。Zは世界標準時。日本時間へ九時間足せば、十七時一分十二秒と十七時六分三十一秒になる。時刻同期の誤差は〇・〇〇三秒だった。

決裁会議で、管理者はログの八時を示し、「締切より九時間も前だ」と説明した。委員たちがうなずきかける。透は時刻表示の末尾を赤く囲んだ。

「このZは日本時間ではありません。九時間足してください」

会議室の時計は十六時五十八分を指していた。透はログを日本時間へ変換した表を映した。十七時一分十二秒。さらに、その五分後に十六時五十九分四十八秒へ書き換えられている。

管理者が回線遅延だと言うと、透は受信開始時刻も十七時一分八秒です、と答えた。締切後に送り始めたファイルは、遅延では救えない。

透は、管理者が変更に使ったアカウントと端末も示した。契約課長席の端末から、十七時六分三十一秒に一度だけ直接更新が行われている。通常の回線補正なら自動処理番号が付くが、その記録には課長の職員番号が残っていた。委員長が本人へ理由を尋ねると、課長は締切直後に業者から電話があったことだけを認めた。救済する相手は、結果を見る前から決まっていた。

委員長は電子承認ボタンへ置いた指を離した。画面には一分十二秒の遅れが残り、その一分が数億円の決裁を止めた。