十二の瞼、ひとつの朝
灯を消した祭室で、盲目の予言者アイラは夜明けの言葉を待っていた。
彼女が祈りを終えるまで、扉を開けてはならない。外では十二人の暗殺者が息を潜めている。
ハイゼンは円の外に座り、額から胸まで並ぶ十二の瞼へ指を置いた。瞼を一つ開けば、次に来る攻撃だけが見える。ただし代償として、彼の記憶から昼の景色が一つ、永久に消える。
最初の眼を開いた。
左の壁から針が飛ぶ未来が見えた。ハイゼンはアイラを伏せさせ、針を肩で受けた。同時に、麦畑の黄色を忘れた。
二つ目。天井裏の弩。彼は燭台を投げて射手を落とした。雪に反射する朝日が記憶から消えた。
三つ目、床下の刃。
四つ目、毒煙。
瞼が開くたび、世界の昼が減っていく。母の赤い髪。海面の銀。市場で見た青い布。どれも色の名だけを残し、像が失われた。
「あとどれくらい?」
アイラが祈りの途中で尋ねた。
「六人」
「眼も六つね」
彼女には見えないのに、声で数が分かる。
七つ目の未来では、暗殺者が彼女の声を真似て助けを求めた。八つ目では、死んだふりをした男が起き上がる。九つ目では、窓の外から火矢が来た。
ハイゼンはすべて防いだ。
そのたび、昼の記憶を失った。父の顔を照らす炉火。アイラと初めて会った庭。彼女が「空はどんな色」と笑った午後。
十一人目が倒れたとき、残る瞼は一つだった。
祭室の中央で、アイラが最後の言葉を唱える。夜明けの予言が完成すれば、城の地下に眠る怪物を封じられる。
最後の暗殺者は姿を見せない。
ハイゼンは十二番目の眼を開いた。
見えたのは、自分自身の背中だった。暗殺者は影へ入り込み、彼の腕を操ってアイラの首を折ろうとしている。
彼はためらわず、予見した瞬間より早く自分の腕を石床へ叩きつけた。影が悲鳴を上げて剥がれ、アイラの杖がそれを貫いた。
祈りが終わる。
窓の隙間から朝日が差した。
十二の眼は役目を終え、石のように閉じた。ハイゼンの額も胸も、瞼のない滑らかな皮膚になっている。
「朝よ」
アイラが彼の手を取った。
「どんなふう?」
ハイゼンは光の温度だけを感じた。朝を見た記憶は一つもなく、色というものが本当に存在したのかさえ分からない。
「初めてだから、うまく言えない」
十二の眼を持っていた異形は、守った盲人に手を引かれ、誰より深い暗闇の中へ歩き出した。