十年後の共同墓地

更紗のもとへ、森の共同墓地から説明会の招待状が届いた。

二十九歳の自分には早すぎる、と笑って捨てかけた。けれど封筒の宛名は確かに更紗だった。以前、終活イベントのアンケートに興味本位で答えたらしい。

招待状には、〈継承者不要・友人同士の登録可〉とある。

その一文が、夜になっても頭から離れなかった。

独身でいる不安は、休日の予定や老後の食卓だけではない。自分がいなくなったあと、最後の手続きをする人がいないかもしれないという、遠すぎて笑うしかない恐怖でもあった。

説明会へ行くと、参加者の多くは更紗より年上だった。係員は、墓標の代わりになる木を二種類示した。隣の席の女性は友人と来ていて、二人で同じ木を選ぶか相談していた。更紗は、その光景を羨ましいとも心強いとも感じた。

春に白い花をつける木。

秋に赤い実をつける木。

仮登録申込書には、どちらかを選ぶ欄がある。更紗は急に現実味を感じ、ペンを置いた。ここへ申し込めば、誰とも暮らさない未来を確定させるような気がした。

係員にそう言うと、「結婚したら解約する方もいますよ」とあっさり返された。

「これは未来の宣言ではなく、今の備えです」

更紗は招待状を裏返した。裏には、説明会へ来なかった場合の次回日程が印刷されている。先延ばしはいつでもできる。けれど、誰かと出会う可能性を信じることと、出会わなかった場合を考えることは、敵同士ではないのかもしれない。

申込書の樹木欄で、白い花に印をつけた。

仮登録料は五千円。十年ごとの更新で、いつでも退会できる。更紗はその条件を一行ずつ読み、署名した。

帰り道、鞄には白い花の木の小さな写真が入っていた。安心より、薄い怖さのほうがまだ大きい。それでも、恐怖を恋人探しの燃料にしなくてよくなった気がした。

誰かが現れたら、そのとき相談すればいい。現れなくても、今日の自分が一つの手続きを始めた。

更紗は写真を捨てず、手帳の十年後のページに挟んだ。未来を決めた印ではなく、決まらない未来の後始末まで、自分の選択に含めた印として。