半分こできない傘
「成果は半分こできない」
戸塚慎吾は、宇田川朋花と営業成績を競うたびそう言った。
同期で、同じ顧客層を担当し、次期マネージャー候補は一人。仲がよすぎると手加減を疑われる。二人は食事にも行かず、帰り道も別にし、好きだという気配だけを机の間に置いたまま競った。
昇格発表の日、選ばれたのは朋花だった。
祝福メールが届く中、戸塚からは何も来なかった。喜ばれると思うほうが勝手だ。それでも退勤まで、彼の席を何度も見てしまう。
外へ出ると、大粒の雨だった。傘を開いたところで、背後から戸塚が走ってくる。手には何もない。
「傘、忘れたんですか」
「わざとじゃない」
「駅まで入ります?」
「新任マネージャーに借りを作るのはまずいかな」
「今さらです」
朋花が傘を傾けると、戸塚は中へ入った。肩が触れそうで触れない。競争中に守り続けた距離が、狭い円の中にも残っている。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
「悔しいけど、選ばれるなら朋花がよかった」
「名字で呼ばないんですね」
「発表が出たら、やめると決めてた」
戸塚は傘の柄へ手を重ねた。朋花が驚いて離そうとすると、逆に握り直される。二人で持つ必要などないのに、指が隣り合った。
彼はコートのポケットから、小さな予約カードを出した。今夜七時半、二名。昇格発表より前に予約した日付だった。
「結果がどちらでも、誘うつもりだった」
「私が負けて、落ち込んでいても?」
「そのときは慰める。僕が負けたら、祝ってもらう」
「今日は?」
「祝ったあと、次の呼び方を相談したい」
朋花は予約カードを受け取り、傘の柄から手を離す代わりに、戸塚の腕へ自分の腕を絡めた。彼の歩幅が一瞬乱れ、それから同じ速さになる。
駅前の横断歩道で、戸塚がいつもの台詞を口にする。
「成果は半分こできない」
「はい」
「でも、帰り道と傘はできる」
朋花は傘を彼の側へ少し傾けた。
一つしかない役職は分けられなかった。だから二人は、勝敗の外にある時間を、初めて半分ずつ持つことにした。