半額シールの時刻

望実は、弁当に半額シールが貼られる時刻を知っていた。

午後八時半。店員が黄色いシールの束を持って売り場へ出てくる。今夜は八時二十七分に店へ着いたので、飲料棚の前で炭酸水を眺めながら三分待った。

待っている自分を、少しみじめだと思う。

給料日前ではないし、生活に困っているわけでもない。ただ、家賃が上がり、電気代も高くなり、何となく毎月の残高が減っている。節約動画で「コンビニは使わない」と言われるたび、仕事帰りにここへ寄る自分が浪費家に見えた。

店員が鶏そぼろ弁当に半額シールを貼った。望実はすぐ取るのが恥ずかしく、一度通り過ぎてから戻った。隣ではスーツ姿の女性が、同じように値引きされたグラタンを手にしている。目が合いそうになり、二人とも棚を見た。

会計は三百九十二円。レシートの値引き欄には、マイナス三百二十円と印字されていた。得をした数字なのに、望実には「定価では買えなかった」と書かれているように見えた。

帰宅して、鶏そぼろ弁当を温める。蓋を開けると、卵そぼろの黄色が思ったより明るい。海苔の細い線が少しずれている。店で売れ残った夕食と、仕事で少し残業した自分。どちらも今日の終わりに、ここへ来た。

望実は家計簿へ三百九十二円と入力した。カテゴリを「節約」にするか「外食」にするか迷い、結局「生活」にした。生きて帰って食べるために使ったお金なのだから、それが一番近かった。

弁当の隅には、甘い豆が二粒入っていた。最後に食べると、子どものころの弁当を思い出した。母は値引きシールを見つけるのが上手で、少しも恥ずかしそうではなかった。

望実はレシートを折り、ゴミ箱へ入れた。

安く買った夕食は、安い夜ではない。三分待って、自分の分を選んで、ちゃんと温めた。今日はそれで、十分うまく暮らしたことにした。

冷蔵庫には何も増えず、洗い物も出なかった。望実は浮いた三百二十円の使い道を考えず、そのままにした。節約は未来のためだけではなく、今夜を楽に終えるためにもあっていい。