合格祈願、恋愛成就
受験前日にもらったお守りには、『合格成就』と縫ってあった。
「普通は合格祈願じゃない?」
僕が言うと、彼女はお守りを奪い返そうとした。
「もう渡したから返さないで」
赤い布に白い糸。字は曲がり、最後の『就』だけ妙に大きい。家庭科が苦手な彼女が、指を刺しながら縫ったらしい。
「恋愛成就と混ざってない?」
「混ざってない」
「じゃあ、なんで成就」
「細かいこと気にすると落ちるよ」
彼女は顔をそむけた。
僕らは同じ高校を受ける。中学最後の冬、放課後は毎日図書室で勉強した。分からない問題を教え合い、眠くなると窓へ指で落書きした。
受験が終われば、進路は決まる。受かれば同じ学校。どちらかが落ちれば別々になる。
「中、何か入ってる?」
「開けたら駄目」
「最近のお守り、全部そうだな」
「最近って誰からもらってるの」
彼女の声が急に低くなった。
「これが初めて」
答えると、機嫌が少し戻った。
試験当日、制服のポケットでお守りを握った。数学の最後の問題が解けず、焦ったとき、白い糸のざらつきが指に触れた。
合格発表の日、僕らの番号は並んでいた。
校門脇で彼女を見つけ、二人で何度も掲示板を確認した。喜びが追いつくまで時間がかかった。
「合格成就した」
お守りを掲げると、彼女は笑った。
「だから言ったでしょ」
「じゃあ、恋愛成就のほうは?」
冗談のつもりだった。彼女の笑顔が止まった。
「混ざってないって言った」
「字は混ざってる」
「しつこい」
彼女は歩き出した。僕は追いかけ、隣へ並んだ。
「もし混ざってたら、誰との成就?」
「自分で考えて」
「受験より難しい」
彼女は立ち止まり、僕のお守りを指した。
「裏」
裏面には、赤い糸で小さな矢印が縫われていた。矢印の先は、彼女が立っている側を指している。
「持ち方で向き変わるけど」
「今は合ってる」
僕はお守りを握り直した。
「じゃあ、こっちも成就させたい」
彼女は返事の代わりに、新しい学校のパンフレットを僕の腕へ押しつけた。
春から使う路線図には、二人の家から伸びる線が同じ駅で重なっていた。