善意の就職先
ボランティアサークルの部室には、寄付品の段ボールが三箱残っていた。
大友紗良は大手飲料会社のCSR部門へ行く。蛭田恭平は国際支援NGO。水原郁は市役所の生活福祉課に決まった。
「一番、企業を批判してた紗良が企業側か」
恭平が段ボールへガムテープを貼りながら言う。
「予算がある場所に行くの。募金箱だけじゃ人は救えない」
「ロゴ入りの支援物資を配るんだろ」
「あなたのNGO、その会社から助成金もらってるよ」
恭平の手が止まった。
郁は古着をサイズ別に分けている。
「市役所も予算削減で、来年から配布会を減らす」
「じゃあ郁は何をするの」と紗良。
「減らす理由を説明する」
「それが仕事?」
「採用面接では『制度の隙間を埋めたい』って言った。でも最初に教わるのは、隙間から来た人を窓口ごとに振り分ける方法らしい」
三人は一年生のとき、河川敷の炊き出しで知り合った。困っている人を見れば動けばいいと思っていた。就活では、善意を予算、制度、持続可能性に言い換えた者から順に内定を得た。
「恭平は海外だっけ」
「半年後。最初は東京で資金調達」
「結局、募金を集める側じゃん」
「現場へ行くためだ」
「私は企業から出す。郁は行政から止める。三人で一つの仕組みみたい」
誰も笑わなかった。仕組みは、人が別々の組織に属して初めて回る。そして同じ部屋には戻れなくなる。
最後の段ボールには、サークル名入りのオレンジ色のベストが入っていた。後輩は活動を縮小するため、三着もいらないと言う。
「一着ずつ持つ?」と郁。
「会社で着られない」と紗良。
「海外には新しいのがある」と恭平。
「市役所では私物扱い」
三人はベストを箱へ戻した。
退室するとき、紗良が照明を消し、恭平が鍵を閉め、郁が廃棄予定の札を貼った。三人の手順はきれいにつながった。
暗い部室で、空いた椅子の背に一着だけベストが掛かっていた。胸の〈できることから〉という文字は、誰にも引き取られず、折り目のところで半分に隠れていた。