嘘つきの星
都邑あさぎが姉の納骨を終えた夜、二人でよく登った給水塔へ行った。
立入禁止の柵を越えると、姉が手すりに座っていた。
高校生の頃の姿で、裸足の踵を空中に揺らしている。
「元気?」
「元気」
あさぎが答えた瞬間、空から星が一つ消えた。
姉は上を見た。
「相変わらず下手」
「何が」
「嘘」
一つ言うたび、星が消えた。
「仕事は順調」
一つ。
「父さんとは仲良くしてる」
一つ。
「今日も泣かなかった」
一つ。
姉は数えながら笑った。
「全部消えたらどうするの」
「町が暗くなる」
「責任重大だね」
あさぎは口を閉じた。
姉は家族の中で、いつも本当のことを言う人だった。
父の再婚相手を好きになれないこと。
病気が怖いこと。
治療をやめたいこと。
あさぎはそのたび、「そんなこと言わないで」と遮った。
励ますつもりだった。
けれど姉は、最後の頃ほとんど何も話さなくなった。
「あのとき、怒ってた?」
あさぎが尋ねる。
姉は答えず、足を揺らした。
「怒ってないよ」と自分で続けそうになり、やめた。
それを言えば、また星が消える気がした。
夜風が強くなる。
町の灯りは多いのに、空は少しずつ寂しくなっていた。
「私、姉ちゃんが病気になってから、優しい妹のふりをしてた」
星は消えない。
「本当は、面倒だった。旅行も行けなくなったし、家では病気の話ばかりで」
消えない。
「早く元に戻ってって思ってた」
消えない。
「死んだあと、悲しいより先に、終わったって思った」
言い終えると、あさぎは手すりを握った。
吐きそうだった。
姉は怒らなかった。
「私も、あさぎが元気なの、面倒だった」
「ひどい」
「お互いさま」
二人は笑った。
「最後に話したかったこと、あった?」
「怖いって」
「知ってた」
「知ってるのと、聞くのは違う」
「うん」
「でも今、聞いたからいい」
東の空が薄くなる。
消えた星は戻らなかった。
あさぎは急に不安になった。
「星、減ったまま?」
姉は肩をすくめた。
「嘘はなかったことにならないでしょ」
その言葉に、なぜか救われた。
取り消せなくても、次の言葉は選べる。
姉の姿が朝の色に溶け始める。
あさぎは最後に言った。
「会えてよかった」
星は消えなかった。
姉がいなくなったあと、空にはまだ数えきれないほど残っていた。
あさぎは給水塔を降り、父へ電話した。
「今から行っていい?」
『どうした』
「仲良くしたいわけじゃない。でも、話したい」
それは嘘ではなかった。
朝の空に星は見えなくなったが、消えたのではないと、今夜だけは信じられた。