地下二階の紙袋

百貨店の地下二階で、新しい焼き菓子店が開店する。

ブランド立ち上げを成功させたとして、月岡俊哉部長は取材を受けていた。

「高級感と実用性を両立した紙袋は、私のアイデアです」

椋本亜澄は売場の隅で、紙袋を一枚ずつ組み立てていた。袋の底を開くと簡易トレーになり、持ち手の片側だけが長い。月岡は試作時に「不格好だ」と却下したが、百貨店のテスト販売で好評と知ると、企画者名を自分へ変えた。社内表彰も単独で申請し、亜澄には売場で取材を受けるなと命じていた。

食品部長の猪瀬綺良が、取材陣の前で紙袋を持ち上げた。

「月岡さん、なぜ持ち手の長さが違うのですか」

「デザイン上のアクセントです」

「では、底に二本の折り線がある理由は?」

「強度を高めるためです」

綺良は首を傾げ、亜澄を呼んだ。

亜澄は、長い持ち手を車椅子の肘掛けに掛け、短い方を引くと片手で袋を開けられると実演した。底の折り線はトレーへ変えるためのものだ。病院帰りの客が、待合室でも菓子を分けられるようにした。印刷された模様は、食物アレルギーの種類を触って識別できる小さな凹凸にもなっている。

取材陣のカメラが一斉に亜澄へ向いた。

月岡が前へ出た。

「椋本には、私が示した顧客目線を形にさせました」

綺良は紙袋の内側を見せた。試作品には、小さく「考案 椋本亜澄」と刻印されていた。月岡が量産直前に消すよう命じたため、百貨店側が原版を保管していたのだ。

「私は半年前、椋本さんからこの袋を見せてもらい、出店を決めました。あなたとは先月の会食で初めて会いましたね」

綺良は全国展開の覚書を開いた。初年度二十五店舗、専用売場付きの大型契約だった。

「商品開発責任者は椋本さん。月岡さんが承認権を持つなら、展開は地下二階の一店舗で終わりです。私たちは彼女の顧客目線を買っています」

社長は取材陣の前で、亜澄を新ブランド事業部長に任命した。

綺良が全国展開の署名済み覚書を亜澄の紙袋へ入れる。長い持ち手を亜澄が握り、短い方だけが月岡の指からするりと抜けた。