城門を出ない売上

大商会は、今年の利益が金貨五千枚だと発表した。

その数字を担保に、王立銀行から二万枚を借りようとしている。祝宴まで開かれたが、臨時監査員の由仁は商会の裏庭を見て足を止めた。

売れたはずの織物を積んだ荷車百台が、すべて残っていた。

由仁は商会で荷札を書く下級職だった。利益発表の前夜、会頭から未発送の荷車にも「売却済」の札を付けろと命じられ、拒んだため監査員の雑用へ回された。役員たちは、帳簿を読めない荷運びが祝宴を妬んでいるだけだと笑った。

だが由仁は、荷車の車輪に乾いた泥が一粒もないことを見ていた。荷台の封も買い手の印ではなく商会の印のまま。契約書の一行と庭の百台が同じ事実を指している。彼が売上を消すと、祝宴用に積まれた金貨の模型も五千枚分取り除かれた。楽師の音が止まり、会頭の乾杯だけが宙に残った。

「契約は済んでいる。だから売上だ」

会頭は由仁を田舎者と笑った。契約書には確かに金貨一万五千枚とある。だが末尾に、『西方城門での引渡しをもって所有権を移す』と書かれていた。

荷車は城門どころか、商会の敷地を一歩も出ていない。

由仁は売上欄の一万五千枚へ横線を引き、同額を在庫へ戻した。そこから仕入原価一万枚を戻すと、五千枚の利益も消える。

本当の利益は、零。

会頭は明日運べば同じだと怒鳴った。しかし西方街道は昨日の崖崩れで封鎖され、引渡し期限は今日の日没。買い手からは契約解除の使者が到着していた。

銀行総裁の前で、会頭の豪華な利益表がただの未発送在庫へ変わる。

さらに借入申請には「確定売上」と署名してあった。総裁は二万枚の融資印を引っ込め、衛兵へ偽装報告書を渡した。

由仁を笑った役員たちは誰も顔を上げられない。

総裁は、城門を出ていない荷車と零になった利益欄をもう一度確認した。

「売れたと言う日ではなく、売った事実を見る監査員が欲しかった」

銀行の正規監査官章を由仁の胸へ留める。

「本日より、王立銀行監査部へ採用する」