墓地の雪は眠りたがり
村の墓地に白狼が現れた夜、家々の戸は一斉に閉ざされた。
白狼は死者の魂を食べる。そんな昔話を誰もが信じていた。窓の隙間から見張る者はいても、墓地へ向かう者はいない。
墓守のオルカを除いて。死者とばかり話す変わり者と呼ばれる彼女には、白狼の孤独そうな背中のほうが、村人の昔話より確かに見えた。
彼女は提灯と湯の入った壺を持ち、石段を上った。白狼は古い墓石の間で丸くなっている。白毛には枯れ草と蝋が絡みつき、四つの足は泥で固まっていた。
「魂を食べるにしては、ずいぶん疲れてるね」
白狼が目を開ける。金色の瞳は鋭いが、体は動かない。前足の肉球が青白く、凍傷になりかけていた。
村人なら神獣は寒さを感じないと言うだろう。けれど白狼の鼻先には霜がつき、眠ろうとするたび足の痛みで目を開けている。オルカは毎冬、墓石の苔を落としている。石も獣も、冷えれば冷たい。
彼女は少し離れた場所へ温めた煉瓦を置き、上から自分の外套をかけた。
「そこなら温かい。私の膝より広いよ」
白狼はしばらく動かなかった。やがて立ち上がり、足を引きずりながら外套の上へ乗る。
オルカは湯で泥をふやかし、足を一本ずつ洗った。毛に固まった蝋は無理に引かず、温めた布でゆっくり溶かす。枯れ草を櫛で外すと、白狼は次第に目を閉じた。
墓地の下から村長が叫ぶ。
「オルカ、そいつを追い払え! 墓を荒らされる!」
「荒らした墓は一つもありません。この子が風よけにしているだけです」
実際、白狼が寄り添っていたのは、身寄りのない旅人の墓だった。墓石の脇には、白狼がどこかから運んだらしい一輪の冬花まで置かれている。誰も花を供えない墓に、白い尾だけがかかっていた。
手入れが終わると、白狼は墓石へ一度鼻を触れた。それからオルカの手首へ月形の印を残し、彼女の隣へ移る。銀印の光は旅人の墓も一度だけ照らし、風に消えかけていた名を鮮やかに浮かび上がらせた。
「今夜だけだよ」
白狼は聞かず、狭い膝へ大きな頭を載せた。蝋の匂いが消えた白毛は乾いた雪より軽やかなのに、預けられた重さは確かで、冷えた墓地の中に小さな炉が置かれたように温かかった。