壊れた一分を縫い戻す

葬儀屋の縫い子イネスは、鐘が六つ鳴るたび同じ死体へ白布を掛けていた。

一つ目の鐘。広場で荷車が横転する。

二つ目。油樽が割れる。

三つ目。火花が飛ぶ。

六つ目で時計塔が爆発し、町が炎に沈む。次の瞬間、イネスは一分前へ戻り、また白布を持って立っている。

十七回目の繰り返しで、彼女は自分の技能表示を読み直した。

【固有スキル《糸直し》:絡んだ糸をほぐし、本来の順序に並べて縫い直す】

町の時間は、時計塔の魔導機関が破損したせいで一分間に絡みついていた。しかも塔主だけは記憶を保ち、事故の原因を隠すため、毎回違う住民を犯人に仕立てていた。

騎士は油樽を止めようとして荷車に轢かれ、魔術師は火を消そうとして塔を早く爆発させる。何を変えても別の事故が起き、最後には全員が死ぬ。

十八回目、イネスは英雄たちの指示を聞かなかった。

彼女には出来事が色の違う糸として見えている。荷車の赤、油樽の黄、火花の青、爆発の黒。それらが間違った順序で絡み、一つの大きな結び目を作っていた。

「また失敗するぞ!」

騎士が叫ぶ。

イネスは広場の中央へ針を刺した。

荷車の赤糸を、鐘が鳴る前へ移す。空になった道を油樽の黄糸が通る。火花の青糸は樽が倉庫へ運ばれた後へ。最後に爆発の黒糸を、警報鐘が六つ鳴った後へ縫い替えた。

世界が一度、布のように裏返る。

一つ目の鐘より前に無人の荷車が倒れ、誰も傷つかない。

二つ目で油樽は安全な倉庫へ届く。

三つ目の火花は石畳で消える。

六つ目の鐘は爆発ではなく避難警報として町中へ響いた。人々が外へ出た直後、無人の時計塔だけが崩れ落ちる。

七つ目の鐘が鳴った。広場の誰もが、次の一秒が本当に続いていることを確かめるように息を止めた。

初めて聞く音だった。

時間を止めて研究成果を守ろうとした塔主が瓦礫から引き出され、十八回分の記憶を持つイネスの証言に青ざめる。

白布は死者ではなく、負傷者を運ぶ担架へ使われた。

【職業《経帷子縫い》が上位職《時序修繕師》へ書き換わりました】