夏服写真部
写真部では、衣替えの前後に同じ場所で同じ写真を撮る。
五月三十一日はブレザー。六月一日は夏服。
今年、私の相手は三年間ずっと同じ部員だった。
校舎裏の白い壁を背景に立つ。昨日は紺色のブレザーで、今日は白いシャツ。たった一日なのに、光の反射まで違って見えた。
「同じ顔して」
「無理。暑さが違う」
一枚目を撮る。
画面の中で、相手はいつものように肩を少し丸めていた。
「もう一回」
「昨日と同じでしょ」
「違う」
私は昨年の写真を見せた。
一年目、二人ともカメラへ近すぎた。二年目、少し離れた。今年の冬服写真では、相手の視線がレンズではなく私へ向いていた。
「これ、撮った人のせい」
「撮られる人のせい」
笑ったあと、相手が言った。
「来年は撮れない」
九月から海外へ留学する。卒業式にも間に合わないかもしれない。
知っていた。けれど、同じ構図が来年だけ空くことを、写真として想像していなかった。
「じゃあ、二枚撮る」
私は三脚を立て、セルフタイマーを設定した。
一枚はいつもの正面。もう一枚は、二人で壁にもたれ、横を向いた。
「同じ写真じゃない」
「来年の分」
「夏服しかないけど」
「未来の服装は、想像で」
シャッターが切れる直前、相手が背筋を伸ばした。
「昨日と違う顔になった?」
「少し」
帰宅後、三年間の写真を並べて印刷した。
ブレザーと夏服が交互に続く。変わっていないつもりの姿勢、髪、目線が、少しずつ変わっていた。
最後に、今日撮った横向きの写真を置いた。
二人とも同じ方向を見ている。画面の外に、まだ写っていない次の季節があるようだった。
留学の日、アルバムを渡した。
相手は最後のページへ一枚分の空白を残した。
『帰ってきた服で撮る』
衣替えは、同じ場所に立って変化を確かめる日だった。
来年は一人でも、壁の前に立つつもりだ。空白が、帰ってくる場所になるように。
一年後、届いた写真には見慣れないコート姿の相手がいた。私は白い壁の前で一人の夏服写真を撮り、その隣へ並べて空白を半分埋めた。