夕方五時の試着室

駅ビルの服飾店で、夕方五時の個室試着が二重予約になっていた。

私、伏見野ゆかりは翌日の最終面接に着るスーツを選ぶ予定だった。ところが個室には、同じ予約札を持った女性、都築紬がいる。店長の硯川さんは「登録は一枠だけのはず」と端末を見直した。

予約を触れたのは、硯川さん、都築さん、私を担当してきた販売員の青砥さん。三人のうち誰かが、同じ個室に名を重ねたらしい。

手掛かりは三つ。都築さんが持っているのは、自分には大きすぎる私のサイズのジャケット。予約メモには「紺ではなく灰色」と、前回来店時の私の迷いが書かれている。そしてポケットから、二年前に私がなくした社員証用の古いストラップが出てきた。

「都築さん、前の職場にいた紬さんですよね」

彼女はマスクを外した。髪型も名字も変わっていたが、確かに元同期だった。

二年前、私は職場でミスを押しつけられ、逃げるように辞めた。紬は事情を知っていたのに、上司へ何も言えなかった。その後、保存されていたメールから真相が分かり、彼女は会社を辞めた。私へ謝ろうとしたが、連絡先も分からず、ずっと社員証のストラップを預かっていたという。

先週、偶然この店で私を見かけた。私が店頭で受け取った予約カードに、大きく翌週の日時が印刷されているのが見えたという。それを頼りに同じ枠を取った。だが直接会うのが怖く、私が試着室へ入る前に、ストラップと灰色のスーツだけ置いて帰るつもりだった。

「紺が嫌いになったの、あの会社の制服のせいでしょう。灰色なら、ゆかりに似合うと思って」

青砥さんは事情を聞き、私のサイズを用意した。硯川さんは予約端末が重複を許したことを謝ったが、私には、二年遅れの手紙を受け取った気がした。灰色の袖は、驚くほど肩になじんだ。

私は灰色のジャケットを羽織り、鏡の前でボタンを留めた。紬の目に涙が浮かぶ。

「明日の面接、受かっても落ちても連絡していい?」

彼女が尋ねた。

古いストラップを鞄につけ直し、私は答えた。

「その前に、今夜のお茶を予約して」