夕暮れの墓地図

祖父の納骨で、家族は墓地の案内図を受け取った。

夕日が紙へ当たると、印刷されていない区画が一つ浮かんだ。

「忘れられた人の墓は、夕暮れの地図にだけ載ります」

管理人はそう言い、詳しい説明をしなかった。

家族は祖父の墓へ向かう途中、その区画を探した。

山側の端、蔦に覆われた小さな墓石。

名字は家族と同じ。

下の名を読んでも、誰も知らない。

祖母だけが墓石へ触れ、顔色を変えた。

「姉さん」

祖母には姉がいた。

戦後、家を出て別の土地で暮らし、家族と争って戻らなかった。

父母は存在を語らず、写真を捨てた。

祖母も長年、姉はいないと言い続けた。

いつから本当に思い出せなくなったのか分からない。

墓石の裏へ、短い文章が刻まれていた。

「妹が笑うと、私も笑った」

祖母は泣いた。

姉のことを忘れたまま、自分だけ家族に囲まれて生きてきた罪悪感に襲われた。

孫は、

「忘れたのは、おばあちゃんだけのせいじゃない」

と言った。

祖母は首を振る。

「でも、名前を言わなかったのは私」

管理事務所で記録を調べた。

姉は結婚せず、町の縫製工場で働き、亡くなるまで毎年、祖母の誕生日に無記名の小包を送っていた。

祖母が「知らない人から」と言って使っていたハンカチや毛布は、姉の物だった。

家へ戻り、押し入れから一枚ずつ集めた。

名前はない。

けれど縫い目の癖が墓地の記録に残る写真と同じだった。

次の夕暮れ、家族は姉の墓へ毛布の端を持っていった。

祖母は姉の名を何度も呼んだ。

記憶は全部戻らない。

顔も声も曖昧なまま。

それでも、無記名の贈り物を受け取っていた日々へ、送り主の場所を作ることはできた。

墓地図は翌朝、普通の印刷へ戻った。

家族は姉の墓の場所を手書きで加えた。

祖父の法要では、食卓に姉の写真がない代わりに、縫われたハンカチを置いた。

知らなかった人の話を、知ったふりせず始める。

忘れた人を完全に取り戻すことはできない。

けれど夕暮れに一度見つけた墓へ、次からは昼の道でも行けるようになる。