契約を読む日曜学校
靴職人見習いのデニは、十二年契約へ親指を押す寸前だった。
親方は「食事と寝床を与える普通の契約だ」と言う。だが紙の下段には、道具代と食費が毎年借金へ加算され、辞めれば三倍で返すと細字で書かれていた。字を習っていない十二歳には、黒い模様と同じだった。
工房区監査官マレイは契約を破らなかった。代わりに、日曜だけ開く学校を設けた。
「読み方を知らない者の印は、同意ではない。契約前に本人が全文を読めるようにする」
授業費は徒弟の家ではなく、銀貨百枚を超える受注契約に百分の一だけ課した。小工房の日常仕事は免除。徴収額、教師代、紙代はギルド会館の入口へ掲示し、監査官の印だけで消せないよう三人の職人代表が鍵を持つ。
大親方たちは不機嫌だった。
「子どもが口答えを覚える」
「違います。約束を覚えるのです」とマレイは返した。
意外にも最初の教師を申し出たのは、契約書を書く老書記だった。自分が書いた細字で泣いた子を何人も見てきたという。革職人は端切れを栞にし、パン屋は授業の終わる時刻へ焼き上がりを合わせた。若い親方たちは、明確な契約の方が逃亡も争いも減ると気づき、見本を持ち寄った。
学校では契約の善し悪しを教師が決めつけず、給金、年限、休日、解約条件を四つの欄へ分けて比べた。条件の良い親方は堂々と見本を貼り、悪い親方だけが紙を隠した。徒弟たちは噂ではなく、自分で選べるようになった。工房側にも、誠実さを示す利益が生まれた。
四週後、デニは同じ十二年契約を声に出して読んだ。
「食費は借金。病気の日も利息が付く。道具は辞めても親方の物。だから、押しません」
親方が怒鳴りかけると、周囲の徒弟たちが自分の契約書を開いた。全員が読める。ごまかせる相手は、もう一人もいなかった。
結局、契約は三年、給金明記、道具代なしに書き直された。デニは最後まで読み、自分の名前を自分で署名した。
その日、日曜学校の壁には最初の卒業証ではなく、誰でも読める大きさの契約書が一枚、堂々と掲げられた。