女王の王冠は公民館に

考古学者だった斑鳩千景は、遺族へこう書き残した。

〈女王の王冠は公民館の倉庫にある。価値を理解する者へ譲る〉

甥の冬真は声を潜めた。

「海外から持ち帰った発掘品だ」

従妹のまひるが疑う。

「本物なら博物館に預けるでしょう」

「盗掘品だから隠した」

「叔母さんを犯罪者にしないで」

「だが公民館だぞ。警備が薄い」

「町内会長が毎晩見回ってる。博物館より質問が多いよ」

冬真は先に文化庁へ電話し、まひるはネットオークションの相場を調べた。

「古代王冠、検索結果なし」

「未発見なら当然だ」

「画像を出せば世界的ニュース」

「発見前に出品画面を作るな」

「あなたこそ寄贈者名に自分の名前を入れてたでしょう」

「仮入力だ」

二人が公民館へ行くと、学芸員、税理士、町内会長がすでに待っていた。

「文化財なら相続できるのか」と町内会長。

「国外搬出の証明が必要です」と学芸員。

「評価額によっては物納も」と税理士。

冬真は腕を組んだ。

「まず発見者の権利を」

まひるがにらむ。

「相続と発見は別」

「私が倉庫の鍵を借りた」

「鍵を借りた人が王になるなら、管理人さんは皇帝よ」

倉庫には祭りの山車、太鼓、折り畳み椅子、段ボールが積まれていた。〈王冠〉と書かれた箱は三つある。

一つ目は紙製の誕生日冠。二つ目はビール瓶の王冠。三つ目は、金色に輝く大きな冠だった。

冬真が息をのんだ。

「これだ。宝石が十六個」

学芸員がルーペを当てる。

「ガラスです」

「古代ガラスなら価値が」

「接着剤に〈去年の夏祭り用〉と書いてあります」

町内会長が手を打った。

「ああ、〈古代女王コンテスト〉の王冠だ。千景先生、三十年前の初代女王だったんだよ」

壁の写真には、若い千景が冠をかぶり、照れくさそうに笑っていた。

まひるが冠を持ち上げる。

「“価値を理解する者”って?」

町内会長は申込書を差し出した。

「今年、祭りを復活させるんだ。王冠を相続する人には、実行委員長もお願いしたい」

冬真は一歩下がった。

「私は歴史的価値を重視する」

「私は実務的価値を」とまひるも下がる。

税理士が申込書を受け取った。

王冠の評価額は八百円、仕事量は一夏分だった。