孤児院を担保にした夜

慈善晩餐会で、モキルネーナ・プレシアは孤児院基金を盗んだ悪女として断罪された。

婚約者イェルク・ダンテが、残高ゼロの基金証書を掲げる。

「彼女が寄付金を使い込んだ。子どもを飾りにした女との婚約を破棄する!」

壇上の孤児院模型を見て、モキルネーナは怒りで指先を冷たくした。それでも声は穏やかだった。

「基金は年金契約です。第六条では、保証人の私債が延滞した場合、保証人の持分だけが自動充当されます」

証書へ触れると、一つの債務名が浮かんだ。保証人イェルク・ダンテ、賭場借入。充当額は、失われた基金と同額だった。

「自動処理だ。私が盗んだわけではない!」

「では、私が盗んだという告発も成立しません」

証拠は年金契約一枚。金の流れは余計な証言を必要としなかった。

基金には、モキルネーナが十年間集めた小さな寄付が積まれていた。銀貨一枚を包んだ洗濯女の手紙も、亡き子の名を記した老夫婦の献金もある。イェルクにとっては賭場の一夜分でも、誰かにとっては明日の食事だった。彼女は空になった残高より、善意を勝手に担保へ変えた軽さに怒っていた。だから彼が補填を口にしても、金額が戻れば終わるとは思わない。鍵と決定権を同じ人へ戻さなければ、また別の誰かが奪われる。

イェルクは模型を倒しながら言う。

「借金は家が払う。婚約を戻せば寄付も補填してやる」

「子どもの金を奪った家に、補填を施しのように語られたくありません」

改革公デュラン・フィグロが一人だけ席を立つ。彼は大金を寄付すると宣言せず、モキルネーナの前へ空の基金帳を置いた。

「公領の休眠地を孤児院へ貸す制度を作りたい。運営者を探している」

「私を公爵家の慈善飾りに?」

「予算権も監査権もあなたへ渡す。飾りでは帳簿に署名できない」

イェルクが「公爵に買われるのか」と嘲った。

モキルネーナは倒れた模型を立て直し、元婚約者へ背を向ける。

「買われるのではありません。権限のある仕事を選ぶのです」

デュランは答えを急かさず手を差し出した。彼女は空の基金帳を抱え、その手を取った。