左手のための剣帯
カーラは左利きだった。
王都の剣術学校では不吉だと叱られ、右手で剣を抜く訓練を強いられた。騎士団へ入ってからも、支給品の剣帯は右腰用しかない。
ある朝、机に左腰用の新しい剣帯が置かれていた。
騎士団長ヴィクトルが無言で顎を引く。
「私に?」
「試せ」
留め具は軽く、肩へ食い込まない。カーラが重い金具を嫌って布紐で代用していたことまで見ていたらしい。
ヴィクトルは規則を曲げないことで有名だった。遅刻した騎士へ理由を聞かず、訓練場から下がらせる。それなのに彼女の装備だけは規則のほうを作り直した。
「抜きやすいです」
「なら採用する」
その日、王立競技会の代表選抜が行われた。
審査官はカーラの剣帯を見て眉をひそめた。
「公式戦では右腰佩刀が規則だ。直しなさい」
「左でなければ、実力を出せません」
「規則に従えない者は失格だ」
カーラは一瞬、剣帯を外しかける。団長が用意してくれたものを無駄にしたくなかった。
ヴィクトルが審査台へ進んだ。
「規則を見せろ」
古い競技規程には「利き手側へ佩刀する」と書かれていた。審査官が慌てて言う。
「慣例では右です」
「慣例は規則ではない」
「しかし、女性騎士が左佩刀では見栄えが」
ヴィクトルの目が冷える。
「競うのは見栄えか」
審査官は団長の命令なら右へ直させられると主張した。
ヴィクトルはカーラへ向く。
「出るか」
「左のままなら」
「出ろ」
カーラが鞘へ剣を戻すと、左腰の留め具は少しもずれなかった。ヴィクトルは満足そうに笑う代わりに、布紐の端を指して「短くするか」とだけ聞いた。試合の勝敗より、彼女が自分の型で立てることを先に確かめている。
彼は選抜名簿へ自ら署名した。
審査台の誰も、もう右へ直せとは言えなかった。
「カーラは左で戦う。装備を変えるよう強制するな。本人が拒んだ型で実力を測ることを、試験とは呼ばない」