帰れない約束

タウラを覆う鎧には、留め金も継ぎ目もなかった。

黒い鉄は皮膚へ食い込み、胸当ての下で別の心臓を鳴らしている。兜の隙間から覗く目は赤い。夜明けまでに最後の一枚が閉じれば、鎧が中身を食べて歩き出す。

リムノは彼女の前へ座った。鎧が食べるのは、他人の心から出た誠実な約束。一つ与えるごとに一枚剥がれる。ただし食われた約束は、誓った者にとって永遠に実現不能になる。

「起きたら酒を奢る」

肩当てが落ちた。同時にリムノの舌から酒の味が消えた。奢るどころか、杯を口へ近づけるだけで吐き気がした。

「破れた屋根を直してやる」

腕甲が外れ、彼の右手から槌を握る力が抜ける。

「おまえの故郷まで送り届ける」

タウラの腹を覆う鉄が剥がれた。彼女の肌には、二人で帰路を示すため刻んだ小さな矢印が残っていた。

腰の鉄が砕けた。頭の中から北へ帰る道が消え、地図の線が意味を失う。

タウラの呼吸が少しずつ人の速さへ戻る。残るのは喉を覆う輪と、心臓の上の一枚だけだった。

「これからも、おまえの名を呼ぶ」

喉輪が落ちた。リムノが「タウラ」と言おうとすると、声は途中で潰れた。音だけが舌に乗らない。

最後の胸当てが赤く脈打つ。中からタウラの声がした。

「もう十分。私はまだ私だ。これを着たまま死ねる」

リムノは首を振った。最後の鉄が求めるのは、命より重い約束だった。

彼は胸当てへ手を置く。

「おまえが目を覚ますまで、私は人間のままでいる」

鉄が笑った。

胸当ては花のように開き、床へ落ちた。タウラの身体から赤い光が消え、人の心臓だけが鼓動する。

同時にリムノの指先が黒く染まった。爪が伸び、腕の皮膚の下を鉄の筋が走る。約束は食われた。だから実現できない。

タウラが目を開く前に、リムノは部屋を出た。味も、仕事も、帰り道も、仲間の名を呼ぶ声も失っていた。

廊下の暗闇で背中から最初の装甲が生えた。

扉の向こうから、救われたタウラが彼を呼ぶ。リムノはもうその名に返事ができず、新しい鉄の心臓が鳴る方角へ、四つ脚で歩き始めた。