幽霊船団の請求書

王国艦隊は出航初日の昼、乾パンを半分に割って配った。

補給台帳には百樽積載とある。だが倉庫にあったのは四十樽だけだった。

提督サルヴァークは補給官を怒鳴りつける。

「請求書には百樽分の支払い印があるぞ!」

「納品書にも、受領印が……」

受領印は、三年前に沈んだ輸送船《北星》のものだった。帳簿上だけ存在する幽霊船が、毎月六十樽を運んだことになっている。

前日まで海軍経理官だったリンゼイは、発注書、実際の納品札、支払請求書の三枚を照合していた。数字か印が一つでも違えば金を出さない。提督は出航式の前に「紙を三度見る臆病者」と彼女を免職し、離島へ送った。

一日目で食料不足が発覚し、艦隊は進路を反転した。敵国との会戦どころか、港外で帰還旗を上げる。

船員には出航前、三十日分の食料があると告げられていた。実際には十二日分。提督が漁をしながら進めと言うと、砲手は大砲で魚は捕れないと返した。

港へ戻る途中にも、幽霊船《北星》への代金が自動で支払われた。存在しない船は一度も遅れず、現実の艦隊だけが空腹で航路を外れた。岸壁の群衆は、朝に見送った船を夕方に迎えた。

一方、離島の沿岸警備隊では、リンゼイが最初の納品を検査していた。請求は魚油二十樽、桟橋にあるのも二十樽、封印番号も一致。隊長は余った予算で救命胴衣を買えたと喜んだ。

リンゼイはさらに過去の請求を調べ、存在しない船へ払われた一年分を回収した。その金で島の灯台へ新しい魔石が入る。夜の海に光が戻り、漁師たちは会計官の仕事を岸から見られるようになった。

島民会議は彼女を財務監査官に任命した。

「幽霊ではなく、生きて帰る船へ金を使ってくれ」

翌朝、提督の高速艇が白旗を掲げて着いた。

「不正業者を暴くため、君の力が要る。免職は撤回する。艦隊へ戻れ」

リンゼイは三枚の書類を重ね、島の受領印を押した。

「免職命令はすでに受領しました。海軍との契約は、その日付で終了しています」