座敷童子が売上を持ち逃げ
商店街の和菓子店〈千鳥庵〉で、売上金が毎晩少しずつ減った。
店主の燕石央華は、家族会議を開いた。
「一日きっちり千円」
父が言う。
「座敷童子が駄賃を取ってる」
弟は母を見る。
「レジを閉める人が間違えてる」
母は央華を指す。
「経営者が一番怪しい」
「自分の店から千円盗む理由は?」
「節税」
「やり方が直接的すぎる」
店には昔から、子どもの足音がするという噂があった。
閉店後、二階からぱたぱたと音がする。
父が胸を張る。
「ほら、座敷童子だ」
弟は父を見る。
「昨日二階で寝てたよね」
「私の足音はもっと重い」
母が言う。
「自覚があるなら床を直して」
翌朝、また千円減った。
央華は防犯カメラを確認した。午前零時、レジの引き出しがひとりでに開き、閉じている。
父が叫ぶ。
「金運を運ぶ童子が、金を持っていった」
弟は言う。
「役割に矛盾がある」
母は央華を疑う。
「遠隔操作できるんでしょう」
「私がやるならカメラを切ります」
「犯人らしい発言」
央華は商店街の占い師まで呼んだ。
占い師は店内を一周し、二階を指す。
「子どもの気配があります」
父が勝ち誇る。
「やはり」
弟は天井を見る。
「足音を聞いただけでは」
占い師は続ける。
「ただし、毛深いです」
母が父を見る。
「あなたが夜中に歩いたのでは」
「私を妖怪の分類へ入れるな」
央華は帳簿を叩いた。
「とにかく千円を返してもらう」
「霊へ領収書も?」
「店の金です」
家族は座敷童子へ交渉を始めた。
「千円は多い。百円に」
「菓子で払う」
「住み込みなら家賃を」
「霊に労働契約を結ばせないで」
その夜、レジの前へ千円札と最中を置き、家族全員で隠れた。
午前零時。レジが開く。千円札が中へ吸い込まれた。
「持っていくどころか入れた?」と央華。
父がレジを調べると、売上管理機能が午前零時に自動で釣銭用の千円を別の小箱へ移す設定になっていた。前月導入した新型レジを、誰も理解していなかったのだ。
二階の足音は、屋根裏を走るハクビシンだった。
母が父を見る。
「座敷童子は?」
父は最中を回収した。
「契約交渉が決裂して出ていった」
売上を減らしていたのは、怪異ではなく説明書を読まない家族だった。