復唱された二滴

夜の薬房で、王女用の鎮静薬が調合されていた。

主治療師は衝立の向こうから叫ぶ。

「青瓶を二滴、白湯へ!」

薬房は雨音と釜の蒸気で騒がしい。若い助手は「二十滴ですね」と聞き取り、滴下器を傾けた。

在庫係のマレクタが、その手首を止めた。

「命令をそのまま返してから入れて」

「忙しいのに遊ぶな!」

助手が怒鳴る。マレクタは滴下器を奪わず、主治療師へ向けて大声で復唱した。

「青瓶、二十滴、白湯へ入れます!」

衝立が弾けるように開いた。

「二滴だ! 二十ではない!」

薬房が静まり返った。

青瓶の薬は一滴でも強い。二十滴なら眠らせるどころか、呼吸まで弱める量だった。まだ一滴も杯へ落ちていない。

主治療師は次の命令を、今度は助手の顔を見て言った。

「青瓶、二滴」

「青瓶、二滴、確認しました」

助手が二滴を数え、マレクタが瓶を閉じる。調合時間は復唱を含めて十八秒。いつもの十五秒より三秒増えただけだった。

その夜、王女は予定どおり一刻眠り、呼びかけで目を覚ました。脈も呼吸も変わらない。誤投与は零。

薬房長は「たまたま聞き違えただけ」と処理しようとした。マレクタは過去一月の廃棄帳を出す。聞き違いで作り直した薬が十一杯、使った銀貨は百七十枚。患者へ届く前に気づけたのは九杯。残り二杯の記録には、長い昏睡と書かれていた。

薬房長は試しに、雨音の中で十種類の命令を読み上げさせた。復唱なしでは三件を聞き違え、復唱ありでは十件すべてが一致した。追加時間は合計三十七秒。作り直し一杯にかかる十五分よりはるかに短い。助手は青瓶の前で深く頭を下げ、以後は誰より大きな声で命令を返した。失敗を隠す仕組みではなく、失敗が患者へ届く前に止まる仕組みになった。

翌朝から、薬房では命令を受けた者が必ず同じ言葉を返すことになった。復唱なしの瓶は、棚から出せない。

王女付き主治療師は、マレクタへ銀の滴下器を渡した。

「在庫係ではなく、投薬確認官として王女のそばに来てくれ」

昇給額は三倍。防いだ二十滴に比べれば、王家には安い買い物だった。