所有物ごと帰る
久我山スズネは領主デルガンへ帰還石を投げた。
《領地帰還石》
使用者を、使用者が所有する物すべてとともに登録座標へ転送します。
「所有物」には契約上の不動産・収容物を含みます。
「俺を逃がす気か?」
デルガンは笑い、石を掴む。城は攻略隊に包囲され、地下牢には転移事故の被害者が何百人もいる。
彼は現実側の安全屋敷を帰還先に登録していた。石を使えば自分だけ逃げられると思っている。
「城は捨てる。囚人も好きにしろ」
デルガンが使用を確定する。
地面が大きく揺れた。
彼の身体だけでなく、城壁、地下牢、宝物庫、拷問塔まで光に包まれる。すべて契約上、領主デルガンの所有物だ。
「停止しろ!」
帰還処理は始まれば中断できない。
スズネたちは城外へ飛び出す。巨大な城が基礎から抜け、空へ吸い込まれていく。
次の瞬間、現実側の安全屋敷の庭へ、ゲーム世界の城が丸ごと出現した。
デルガンが秘密にしていた屋敷は、監査局の包囲網の中央にあった。突然現れた城から囚人たちが溢れ、証拠品も契約書も一緒に現実へ持ち込まれる。
デルガンは帰還に成功した。だからこそ、ゲーム内で裁けなかった罪を現実で逃げられない。
スズネも城の一部へ手を触れていたため、《収容物》として転送されていた。庭で立ち上がり、石の説明を見せる。
「一人で帰る道具じゃなかったのか」
「一人が持ってるものを、全部帰す道具だった」
《領地帰還を完了》
《転送対象:デルガンおよび所有物一万四千二百九件》
現実側で城の所有権を問われると、デルガンは「ゲーム内データだ」と否定した。だが帰還石は、本人の契約を根拠に城を所有物として転送している。
所有していないと言えば領主権を失い、所有していると言えば牢と拷問塔の責任を負う。
スズネは彼の答えを待たず、囚人の名簿を提出した。
城を丸ごと持ち帰る攻略は派手に見えたが、実際に重かったのは石壁ではない。所有という言葉へ結びついた一万四千件の責任だった。
《帰還成功を再定義――領主は城から逃げたのではなく、隠していた城と被害者と証拠を現実の法廷へ所有したまま持ち帰りました》