旅程表の青い線

由良との旅行は、失敗しない。

航空券もホテルも彼女が取り、食事の店まで十五分刻みで決める。私は方向音痴で、英語も苦手だ。パスポートをなくすと困るので、空港へ着くと由良が二人分を首から下げた袋へ入れた。

「莉子は楽しむ担当でいいよ」

その言葉に甘えてきた。

台湾旅行の旅程表には、青い線で私の動きが書かれていた。由良の予定は黒。トイレへ行く時間まで青で囲まれているのが少し変だったが、集合に遅れないためだと思った。

もう一つ、私が現地の人と話すと、由良は必ず間へ入り、通じていても日本語で言い直した。誤解を防いでくれている。写真の投稿文も彼女が作り、私は貼り付けるだけだった。フォロワーには、いつも由良が私を連れていってくれるように見えた。

最終日の朝、会社から連絡が来た。翌日の昇進面談が予定通り行われるという。夜便で帰れば間に合う。由良へ伝えると、彼女は笑った。

「旅行中まで仕事の話? 莉子らしくない」

空港で搭乗券を受け取ると、帰国便は翌々日に変更されていた。由良は台風で欠航したと言ったが、電光掲示板には元の便が定刻で表示されていた。

「こっちのほうが安かったから、昨日変えたの」

私は初めて声を荒らげた。面談のことは一か月前から話していた。由良は驚いた顔で、私の肩をさすった。

「昇進したら忙しくなって、もう旅行できないよ。無理して向いてない仕事を選ばなくてもいいじゃない」

パスポートを返してと言うと、彼女は袋を抱いたまま泣いた。私を一人で帰すのは危険だと繰り返した。空港職員が間に入り、ようやく取り戻した。

私は元の便を買い直した。搭乗口へ走る途中、由良から共有ファイルの通知が来た。旅程表の更新だった。

青い線は、帰国後の一週間まで続いていた。面談辞退の電話、退職届の提出、由良の家への引っ越し。

最後の欄には〈莉子が自分で決めたと思えるよう、急かさない〉とあった。

機内で位置共有を切ると、由良から一件だけ届いた。

〈せっかく、あなたが負けても恥ずかしくない人生を用意したのに〉

青い線は切れたが、私の予定表には翌月の「由良と退職祝い」が、すでに承認済みで残っていた。