日直を一人で引き受けない
十歳の玲奈は、放課後の教室で緑色のチョークを渡された。
日直は二人一組。相方の絵里香が鞄を持ち、前の人生と同じ甘い声を出す。
「お願い、今日だけ。先生には二人でやったって言うから」
前の玲奈は頷いた。
一人で黒板を消している間に、絵里香は理科準備室の骨格模型を壊し、破片を玲奈の掃除袋へ入れた。日直を一人でしていた事実と袋の破片だけが証拠になり、玲奈は弁償と停学を命じられた。その記録で希望していた中学の推薦も失った。母は玲奈を信じたが、学校側は「証拠がある」の一点張りだった。玲奈はそれ以来、頼み事を断るともっとひどい罰が来ると思い込んだ。
絵里香は卒業式まで「お願いを聞いてくれないと、また悪い子にする」と玲奈を使った。
緑のチョークが、今度は折れずに掌にある。
玲奈は教卓へ戻した。
「一人ではやらない。絵里香さんが帰るなら、先生に日直未完了と書く」
笑顔が消える。
「友達じゃないの?」
「友達は、嘘を頼まない」
玲奈は日直簿へ時刻と絵里香の退室を書き、職員室へ持っていった。さらに、未来で増設されたと思っていた廊下の防犯カメラが、この年から試験運用されていたことを思い出す。
担任へ「理科準備室側も映っていますか」と尋ねると、絵里香が背後で息を呑んだ。
担任は不審に思い、映像を確認する。
画面には、帰ったはずの絵里香が準備室へ戻り、模型を床へ落とし、破片を玲奈の掃除袋へ運ぶ姿が映っていた。しかも日付は今日だけではない。消えた備品を何度も玲奈の棚へ隠している。
絵里香は泣いて「玲奈に命令された」と言った。
玲奈は日直簿を開く。
「私はその時間、先生とここにいました」
前の人生では夕方五時、母へ《器物破損について至急来校》という通知が送られた。
五時ちょうど、母の端末が鳴る。
担任が文面を読み上げた。
《玲奈さんへの疑いは解消しました》
《長期間の被害について学校から謝罪します》
担任は以前なら書いたはずの指導票を、玲奈の前で二つに破る。
「一人で我慢しなくていい。断ったあなたが正しかった」