旧校舎の四枚目
取り壊し前の旧校舎で、写真部の先輩がなくしたフィルムを探した。
三年前、初めて撮った四枚のうち、一枚だけ現像できなかったという。部室の床下へ落としたはずだが、昼間は立入禁止で入れない。
夜、工事用フェンスの隙間から入った。
私と先輩の二人だけ。
懐中電灯で旧部室を照らす。床は埃だらけで、机も棚も撤去されていた。
「四枚目、何を撮ったんですか」
先輩は答えなかった。
床板の隙間へ定規を差し込み、何度も探す。ネジ、古い硬貨、乾いた消しゴム。フィルムは見つからない。埃の中へ手を入れるたび、先輩の制服の袖だけが白く汚れていった。
一時間後、先輩が壁にもたれた。
「もういい」
「ここまで来て?」
「本当は、何を撮ったか覚えてる」
四枚目は、当時同じ写真部だった親友の後ろ姿だった。その人は先輩へ何も言わず退部し、転校した。最後に喧嘩したまま、連絡も途切れた。
「写真が見つかれば、連絡する理由になると思った」
「見つからなくても連絡すれば」
「怖い」
大人には、仲直りしたければ素直になれと言われる。正しい。でも、正しさでは動けない夜がある。
私は床へ座った。
「じゃあ、四枚目を撮り直しましょう」
誰もいない旧部室。剥がれた壁。先輩の後ろ姿。
シャッターを切った。
「これを送って、『まだ覚えてる』って」
先輩は長く迷ったあと、スマートフォンを出した。
転校した親友の連絡先は、消せずに残っていた。
写真を添付する。
『四枚目、なくしたままです』
送信。
すぐ返事は来なかった。
私たちは侵入の跡を消し、旧校舎を出た。
翌朝、先輩からメッセージが届いた。
『返信来た』
画面には一行。
『私、あのとき振り返ったよ』
先輩が撮ったのは後ろ姿ではなく、振り返る直前だったらしい。
旧校舎はその週に壊された。フィルムは最後まで見つからなかった。
でも、見つけたかったのは写真ではなく、止まったままの会話だった。
四枚目の代わりに撮った夜の部室は、二人の新しい最初の一枚になった。