暗転しない部屋

里見龍弦のワンルームには、昼でも編集画面が見えるよう、窓いっぱいの遮光カーテンが必要だった。取り付けに来たのは蜂谷成央だった。

「脚立、押さえろ」

「監督に命令するな」

「もう監督じゃないだろ」

七年前、二人は自主映画の同じ制作チームにいた。龍弦が監督、成央が録音と編集。映画祭へ出す直前、出資者の意向で上映時間を削り、成央の名もクレジットから落ちた。龍弦は止めなかった。作品は賞を取り、チームは壊れた。

その後、龍弦は商業作品からも外れ、今は配信動画を切って暮らしている。家賃を半分にするため、成央が使っていない部屋へ転がり込むことになった。ただし、二人とも「共同生活」とは呼ばなかった。

カーテンレールは壁の下地を外し、一度抜けた。成央が穴へアンカーを入れ、龍弦が掃除機で粉を吸う。白い壁に小さな傷が増えた。

「撮り直せないな」

「壁はカットを割れない」

「お前、昔から音より画を優先する」

「お前は音で全部説明しようとする」

言い合いながら、二人はレールを一本ずつ留めた。最後のねじだけ斜めに入り、締めると金属が鳴った。成央は舌打ちし、龍弦は外してやり直した。

カーテンを掛けると、部屋は一瞬で暗くなった。龍弦の顔も、積まれた段ボールも見えない。成央が端を少し開け、細い光を残した。

「完全に閉じると朝が分からない」

「編集には都合がいい」

「生活には悪い」

床へ二人で机を運び、モニターを置いた。龍弦は古いハードディスクを接続した。中には、あの映画の未編集データがまだ残っている。再生しようとすると、成央は止めなかった。ただし、見るとも言わなかった。

夜、成央は部屋の札を「客間」から「編集室」へ替えた。龍弦の名字は書かなかった。代わりに、台所の棚へマグカップを一つ増やし、冷蔵庫に龍弦が飲む安い炭酸水を入れた。

暗い部屋で、龍弦は帰宅時間を伝える必要はないと思った。それでもメッセージ欄へ「明日、二十三時」と打った。成央からは、玄関の照明は点けておく、とだけ返ってきた。