東向きの鉢植え

沢渡瑞穂と宗一が最後まで迷ったのは、窓の向きだった。

北向きの二LDKは駅から五分で、家賃も予算内。東向きの一LDKは駅から二十二分、部屋も狭く、家賃が一万円高い。

宗一は北向きの部屋を選びたがった。合理的だった。瑞穂も、暮らしやすいのはそちらだと思う。

ただ、瑞穂の部屋には鉢植えが十二個ある。朝の光で葉を開くもの、日照が足りないとすぐ弱るもの。宗一は「育たないなら減らせばいい」と言った。それは正しい。鉢植えのために毎月一万円多く払い、遠い駅まで歩くのは、生活の優先順位を間違えているように見える。

二十九歳の誕生日に、瑞穂は友人から小さな挿し木をもらった。根はまだ細く、透明なコップの水に浮いている。宗一の部屋には、彼が十年育てているサボテンが一鉢ある。

不動産会社から、二件の申込期限を知らせるメッセージが届いた。

北向きの写真には、宗一のサボテンだけを窓辺に置く未来が見えた。東向きの写真には、瑞穂の鉢で狭くなった床と、その隙間で暮らす二人が見えた。

「植物を全部持っていきたい。東向きじゃないなら、私は今の部屋に残る」

瑞穂が言うと、宗一は呆れたように息を吐いた。

「俺より鉢が大事?」

「比べさせるなら、たぶん一緒に住めない」

言った瞬間、関係を壊すほど頑固だったかもしれないと思った。

長い沈黙のあと、宗一は二つの図面を重ね、東向きの方へ丸をつけた。

瑞穂は申込書に署名した。宗一が納得しきっていないことも、毎朝二十二分歩く不満も、枯れる鉢が出ることも分かっている。

瑞穂は帰宅後、十二個の鉢の受け皿を洗い、運ぶ順番を書いた。割れやすい鉢は自分で抱え、土がこぼれたら自分で掃除する。東向きを条件にした以上、その面倒を宗一へ押しつけることはできない。守りたいものを主張するなら、守る手間まで自分の側へ引き寄せる必要があった。

引っ越し当日、宗一が面倒そうな顔をしても、まず自分の腕で運ぶつもりだった。選んだ条件を、相手の労力だけで支えないためだった。

それでも挿し木のコップを窓へ移し、根の細さごと、新しい住所へ連れていくと決めた。