枕カバーだけ替える
土曜の午後三時、眞白はベッドからシーツを半分だけ剥がしたところで、スマートフォンを見た。
悠里が結婚を報告する写真を投稿していた。白い壁、淡い花、きれいに磨かれたテーブル。二人の手の間に、小さな箱が置かれている。
眞白は自分の部屋を見回した。床には部屋着、椅子には乾いた洗濯物、ベッドの下から片方だけのスリッパが覗いている。今日は掃除をするつもりだった。午前中に始めるはずが、動画を見ているうちに三時になった。
〈おめでとう。写真すごく素敵〉
送ると、悠里からすぐに返事が来た。
〈ありがとう。壁の反対側、段ボール六箱あるけどね〉
続いて送られてきた写真には、最初の画面に入らなかった部屋が写っていた。開いた箱、丸めた毛布、床に置かれた掃除機。花の写真は、その散らかった部屋の一角だけを切り取ったものらしい。
眞白は思わず笑った。
悠里はいつも整って見えた。大学時代も、提出物を忘れず、髪に寝癖がなく、恋人と別れた翌日にも普通に講義へ来た。眞白は勝手に、悠里の人生には画面の外側がないと思っていた。
〈実は入籍の帰りに喧嘩した〉と、さらに届く。
〈理由、どっちが段ボール潰すか〉
眞白はベッドの上のシーツを見た。半分剥がれ、半分はマットレスに引っかかっている。ここから全部替え、床を掃き、洗濯物を畳み、きれいな部屋で悠里を祝うつもりだった。
だが、祝福はもう送った。悠里の段ボールも、眞白のスリッパも、今すぐ消えなくていい。
眞白はシーツを元へ戻した。しわを手で伸ばし、枕カバーだけ外す。新しいカバーは洗剤の匂いがした。
〈喧嘩の続報も待ってる〉
そう送ると、悠里から〈たぶん私が潰す〉と返ってきた。
眞白は乾いた洗濯物の山から靴下を一足だけ探し、残りは椅子に戻した。部屋はほとんど変わっていない。けれど、枕だけは清潔になった。
ベッドに横になると、画面の外側まである友人の結婚が、少し身近に感じられた。掃除は明日でもいい。今日の自分は、枕を一つ替えたところで合格にした。