桜のない校門

加賀谷七海の卒業写真には、桜が一輪も写っていない。

その年の三月は寒く、校門脇の桜は固い蕾のままだった。空は白く、風が強く、卒業生の髪だけが派手に舞っていた。みんなは「映えない」と文句を言い、写真アプリで花びらを足した。

七海には、桜が咲かないことが自分への罰のように思えた。第一志望の大学に落ち、進路欄は「予備校」の二文字。式の朝まで親と口論し、教室では合格した友人たちの笑顔へ、うまく笑い返せなかった。

校門で一花が、穴あけパンチと桃色の折り紙を取り出した。

「作ればいいよ」

二人でしゃがみ込み、折り紙を何度も抜いた。丸い紙片は花びらには見えなかったが、一花は両手いっぱいに集め、七海の頭上へ投げた。

その瞬間、突風が吹いた。

紙片は一枚も写真の中へ落ちず、道路の向こうへ飛んでいった。撮影を頼んだ後輩が、困った顔でスマートフォンを下ろす。七海はとうとう笑ってしまった。何をしても予定どおりにならない一日だった。

一花は残った折り紙を見て、言った。

「桜、なくていいか」

「さっきまで作ってたのに」

「咲いてないものを、咲いたことにしなくてもいいでしょ」

二人は蕾の枝の下でもう一度並んだ。七海は合格したふりも、平気なふりもしなかった。目は少し腫れ、コサージュは風で裏返っている。写真の奥には、桃色の紙片を拾う用務員の姿まで写った。

数日後、本物の桜が咲いたころには、七海はもう予備校の教室にいた。満開のニュースを見ても、校門へ撮り直しには行かなかった。蕾の写真が失敗作ではないと、一花に言われる前から少しだけ分かっていた。

それから八年、七海は会社員をしながら夜間の製菓学校へ通うか迷い続けた。同世代は昇進や結婚の報告をしている。今から始めるのは、季節を間違えた花のように感じた。

願書に貼る写真を探し、古い卒業写真を見つける。蕾の下の自分は、失敗した日の顔なのに、妙にまっすぐ立っていた。

七海は願書の入学希望時期に「十月」と書く。春ではない。誰かと同じ時期でもない。

封筒を閉じると、机の隅から桃色の丸い紙片が一つ落ちた。七海は写真へ貼り足さず、そのまま願書と一緒に封筒へ入れた。咲いていない日から始めたことも、自分の季節として持っていくために。