梟の夜番

妻を亡くして半年、父親は二歳の子どもと二人で暮らしていた。

子どもが寝ても、何度も呼吸を確かめる。

小さな咳で起き、布団をかけ直し、朝には仕事へ行く。

眠れば何かを見逃す気がした。

窓へ白い梟が止まった。

少年の頃、納屋の網へ絡まった梟を助けたことがある。

その鳥は窓を三度つつき、眼鏡をかけた老女の姿になった。

「夜明けまで、一人の眠りを見張れます」

梟の恩返しだった。

父親は子どもを頼もうとした。

老女は首を振る。

「見張るのは、眠る人」

「だから子どもを」

「この家で、眠れていないのはあなたです」

父親は拒んだ。

自分が眠る間に熱が出たら。

泣いても気づかなかったら。

妻の最期も、夜中だった。隣で眠っていて、呼ばれた声に気づけなかった。

老女は子どもの布団脇へ座り、羽のような袖を広げた。

「眠りは、見捨てることではありません」

「死んだ人には言える」

「生きている鳥も、目を閉じます」

父親は目覚ましを五つ設定した。

老女が全部止めた。

仕方なく横になる。

眠りの中で、妻が出てきた。

謝ろうとすると、妻は子どもの靴下を畳みながら、

「寝てた人へ、死んだ責任を渡さないで」

と言った。

夢だと分かっていた。

それでも、最後まで聞いた。

目覚めると朝だった。

子どもは老女の膝でなく、自分の隣へ転がって眠っている。

夜中に一度泣き、梟が背中を叩いたという。

「なぜ起こさなかった」

「起こすほどの泣き方ではなかった」

「私が決める」

「だから、今度から起こす基準を誰かと決めなさい」

梟は窓へ戻り、白い鳥になった。

飛び立つ前、一本の羽を落とした。

父親は姉へ電話した。

週に一晩、泊まりに来てほしいと頼んだ。

保育園にも、夜の咳について相談した。

一人で全部を見張ることを、愛情の証明にしないと決めた。

梟の羽を枕元へ置いても、次の夜は普通に目が覚めた。

子どもの咳で起き、必要なら水を飲ませる。

何もなければ、また眠る。

妻の夢は二度と見ない。

それでよかった。

父親が前を向く時間は、夜じゅう目を開けて守るものではなく、眠りと朝の間にも続いていた。