欠席番号の窓
彼が学校へ来たのは、放課後五時を過ぎてからだった。
三か月ぶりだった。
教室には私しかいない。日直の仕事を終え、カーテンを閉めようとしていた。
扉の前に立つ彼は、制服が少し小さく見えた。
「入っていい?」
自分の教室なのに、そう聞いた。
私はうなずいた。
彼の席は窓際の後ろ。休み始めてからも、机はそのまま残っていた。プリントを入れる係は私だった。誰に頼まれたわけでもない。
彼は机の中を確かめた。
「多いな」
「三か月分」
「捨てていい?」
「テストもあるよ」
「それはもっと捨てたい」
少し笑った。
窓からオレンジ色の光が入り、彼の長い影が教室を横切った。空席だった机から、初めて影が伸びている。
「明日、来るの?」
聞いてから後悔した。
彼の笑顔が消えた。
「分からない」
「そっか」
それ以上言わなかった。
彼は黒板の前へ行き、日付を見た。朝、私が書いたものだ。
「曜日、間違ってる」
「誰も気づかなかった」
「先生も?」
「みんな黒板見てないから」
彼はチョークを取り、曜日を書き直した。
たった一文字。
それだけで、今日の教室に参加したように見えた。
「学校、変わってない?」
「購買のパンが値上がりした」
「大事件」
「あと、席替えした」
彼は自分の机を見る。
「ここ、僕の席じゃない?」
「欠席者は保留になった」
「ずるい」
「戻ってきたらくじ引き」
街の色がオレンジから青へ変わり始めた。
「帰る」
彼が言った。
私はカーテンを閉めず、一緒に教室を出た。
昇降口で別れるとき、彼は振り返った。
「明日じゃないかもしれないけど、また来てもいい?」
「曜日を直しに?」
「間違ってたら」
翌日、私はわざと曜日を一日ずらして書いた。
彼は来なかった。
次の日も、その次の日も。
一週間後の夕方、教室へ戻ると、曜日が正しく直されていた。
机の中には、三か月分のプリントから一枚だけ抜き取った跡があった。
彼がいつ戻るかは、まだ分からない。
それでも空席ではなく、帰ってくる途中の席だと思えるようになった。