死体蹴りの続きを見ろ
《鳴海千景、また獅堂カイに近づくな》
《倒れた相手を蹴った動画、まだ消してないのか》
《炎上相手で再生数を稼ぐな。救命班を待て》
雷葬回廊の床で、獅堂カイの心臓は止まっていた。先頭を競っていた二人は犬猿の仲として有名で、炎上動画のあと、千景だけが大会資格を停止された。カイは事情を説明しようとしたが、技能の審査が終わるまで口外禁止を命じられていた。沈黙だけが悪意の形に編集され、千景の配信には毎日、暴力配信者の文字が流れた。
鎧に残った電流のせいで誰も触れられず、自動蘇生器は過負荷で作動しない。救命班の到着予測は四分後。猶予表示は残り七秒。
鳴海千景は靴の留め具を締めた。救命班から待機を命じる赤い表示が出る。従えば資格は守れる。だが七秒後には、守る相手がいなくなる。
《まさか、また蹴る気か》
《前回の“死体蹴り”と同じ構え》
《やめろ!》
千景はカイの胸当てを、一度だけ踵で蹴った。
乾いた衝撃とともに、鎧に溜まった雷が彼女の脚へ吸い込まれる。
次いで、調律された一筋だけがカイの胸へ返った。
心電図の線が跳ねる。カイの身体が大きく反り、止まっていた心臓が規則正しく打ち始めた。
千景の技能《衝撃蘇生》。打撃で有害な力を抜き、必要な強さへ整えて戻す。手ではなく踵を使うのは、絶縁靴を通して出力を測るためだ。
《心拍再開、毎分七十二》
《残留電流ゼロ》
《前回映像の完全版が出た。あのときも蹴った直後に死亡判定解除》
《切り抜きは蘇生前の五秒で終わってた》
カイが薄く目を開ける。
「また……蹴ったな」
「助かった感想がそれ?」
「今度は、最後まで映ってるか」
千景が固定カメラを指すと、カイは安堵したように笑った。千景は悪態を返しながらも、自分の上着を丸めてカイの首の下へ差し込む。資格停止中のため、それ以上の処置には手を出さず、到着した救命班へ正確な電圧値だけを告げた。
《本人も前回の真相知ってた》
《二人で説明しなかったの、技能悪用防止の審査中だったからか》
《救命班到着。処置は完璧との判定》
《炎上動画のタイトルが更新される》
再生数二千万の切り抜きに、公式訂正が重なった。
【『倒れたライバルを笑って蹴る女』→『二度、同じ一蹴で心臓を戻した救命士』】