死霊術師は一列だけ耕す

死霊術師モルデが辺境へ追われたとき、村人たちは墓を隠した。

彼は誰の骨も掘り返すつもりはなかった。戦争で十分すぎるほど働かされた。欲しかったのは静かな畑と、温かい夕食だけだ。

廃屋の納屋で見つけたのは、黒い鍬。《夜牛》と刻まれた魔法農具だった。月明かりの下で一列だけ、自動で土を起こす。ただし使い手の影を牛の形に借りる。

「なるほど。死体はいらんのか」

その一点が気に入った。

初日の夜、モルデは畑の端へ鍬を置いた。月が雲から出ると、足元の影が長く伸び、角のある牛へ姿を変える。半透明の背へ鍬の柄がつながった。

影牛が一歩進む。

ざく、ざく、と湿った音が夜に響く。白い骨ではなく、黒い土が持ち上がる。虫は左右へ逃げ、埋もれていた石だけが青い火をまとって脇へ転がった。

一列しか耕せない農具は、軍には使えなかった。兵站部は一晩で百列を求めたからだ。

戦場では、モルデの術も「もっと起こせ」と命じられた。昨日倒れた兵を今日また歩かせ、名前を呼ぶ暇さえ与えなかった。

夜牛は一列の終わりを知っている。働かせすぎれば、影そのものが薄くなる前に止まる。その制限は欠陥ではなく、約束のように思えた。

だがモルデは、影牛と並んでゆっくり歩いた。途中で立ち止まり、月を見た。牛も止まる。急かす指揮官はいない。

畑の端へ着くと、影牛は鼻先を土へ寄せ、仕事を確かめるように一度だけ息を吐いた。月光の粒になって消える。

残った畝から、夜露を含んだ土の匂いが立った。

モルデは小屋で茸の煮込みを作った。油を落とした鍋がことこと鳴り、香草の湯気が窓を曇らせる。そこへ黒衣の審問官が封書を持ってきた。

「北方で戦死者が増えています。王は恩赦と引き換えに、再召集を命じました」

モルデは封書を受け取ったが、開かなかった。鍋の蓋がかたかた鳴るほうが重要だ。

「死者には休息を。私にもだ」

審問官が去ると、窓の外で影牛の輪郭が一瞬だけ揺れた。

モルデは椀を二つ並べ、片方を畑の端へ置いた。影は食べない。それでも今夜くらい、働いた者の席があってよかった。